第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「あ、ああ…ふたば屋さんか。ちょうどコイツらと行こうとしてたところだ」
「おお、それは毎度ご贔屓に…。息子夫婦が店番をしてるからしっかり堪能して下さいな。それにしても…ほの花ちゃんが一緒じゃないのは珍しいねぇ?」
珍しい?
俺はアイツとよくふたば屋に行っていた?
店主は嘘を言っているようには見えないが、俺にその記憶がないのは不可解だ
「…ええ。ほの花は仕事に行ってるので今日は四人できました。」
「そうかいそうかい!色男だからなぁ、宇髄さんは!でも、ほの花ちゃんを泣かせないでくれよ?ははは!」
「アイツには土産でも買って帰りますよ。」
「そうしてくれ。ああ、そうだ!今日はほの花ちゃんが大好きな豆大福があと少ししかないんだ。早めに取り置きしてやってね。じゃあ、私は仕入れに行ってくるのでまた。」
深々と頭を下げてその場を去っていく店主の後ろ姿を見つめながらため息を吐く
ほの花は豆大福が好きだったのか?
しかもふたば屋には俺と何度も一緒に行っている。一緒じゃないのが珍しいと言われるほどに
それなのに俺の記憶はない
何だよ、これ
気持ち悪ぃな
「天元様って甘味好きだったんですか?そんなほの花さんと通うほど?」
「あー…あんま覚えてねぇんだわ。俺は別にそこまで好きじゃねぇけど…ほの花に付き合って行ってたのかもな。覚えてねぇけど」
「え?覚えてないって?て、て、天元様、大丈夫ですか?!」
まきをが心配そうに俺の額に手を乗せて熱の確認とかし出したけど、俺の体調は頗るいい
悪いところなんてない
頭痛だってないし、脳にも異常はないと思う
任務に行っても判断力はちゃんとあった
それなのに靄がかかっているようなこの気持ち悪い感覚は説明がつかない
「…今度、胡蝶のところに行ってくるわ」
「そうしてください!!体調悪いなら休まないと!!」
ほの花と此処にきた記憶だけでなく
アイツの好きなものも
アイツの恋人の存在も
全部知らないなんて異常だ
自分の体に何らかの異常をきたしていることは間違いないのだ