第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
夫婦の時間…か
俺はやっぱりどうかしたのだろうか
夫婦の時間と言う言葉さえ違和感がある
走って行ってしまったほの花の後ろ姿を見つめることしかできない。
安易に誘ってしまったが、アイツの言う通りあの三人は"夫婦の時間"を楽しみたいのだろうか
もしそうならば確かにそれは"野暮"なことだ
でも、ほの花もそばにいて欲しかった
俺の継子なのに頻繁に胡蝶のところへ行くのは薬師の仕事がある故仕方ないとは思うが、行けば同期の奴らにも会うわけで、そいつらはほの花の恋人とのことを知っていたんだろ?
だから慰めていたんだろ?
そんな奴らにさえ負けた気分がして苛々が止まらない
何故俺には言わなかった?
俺の継子だろ?
だけど、師匠としてどこまで口を出して良いのか分からない
こんなにヤキモキするなんてこと今まであったか?急にこんな気持ちになったのか?
そこですらまた過程がわからない
思い出せない
ほの花のことは継子として可愛がっているのは間違いないとは思うけど…その感情すら合っているのか分からない
自分で自分のことが本気でわからないなんてこと初めての経験だ
「あ!天元様、おはようございます。」
「…あー、おはよ。雛鶴、アイツって…俺の継子だよな?」
「??ほの花さんですか?この前からどうしたんですか?そうですよ?お館様に頼まれたって言ってたじゃないですか。」
何度聞いても同じ答えが返ってくるのに、何度聞いても納得ができないのは何故だ?
ただただその答えにすら苛立ってしまう
悟られないように必死に心を落ち着かせると俺は笑顔を作る
「そうだよな。ごめん。昼から出かけっからよ、三人ともしっかりめかしこんでおけよ!」
「え?三人?ほの花さんは行かないんですか?」
「…アイツは継子だから来ねぇとよ。夫婦でどうぞって言われた」
「え…?あ、…そ、そうなん、ですか?わかりました。」
雛鶴までほの花のその行動に小首を傾げる始末
ほら、別にコイツらは気にしてねぇんじゃないのか?お前が来ようと。
遠慮してんのはお前だけだろ。
次からは引き摺ってでも一緒に連れて行こう
そう心に決めた。