第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
昨日一日中、死んだように眠ったおかげで朝から体が軽い
私は庭に出ると宇髄さんに言い付けられている準備運動を一通り行う
このおかげで基礎体力は格段に上がったし、筋力もついた
夏の日差しのせいで汗が噴き出すのは仕方ないが、ぺたりと前髪が張り付き、隊服まで濡れていくのは不快感がある
漸く全ての準備運動が終わった頃には私は汗だくで後から後から溢れ出すそれに拭いきれずに地面に落ちて行った
すると、一番奥の部屋から宇髄さんが出てきたので平静を保ったまま「おはようございます!」と声をかける
そうすればちゃんと返してくれるけど、しのぶさんのところに行ってくると言ってその場を去ろうとした時、大きな手が私の手首を掴み引き寄せられた。
あまりに突然のことで受け身も取れずに、感じたのは優しい温もりと既に懐かしさを感じる肌の感触だ
こうやって私は後ろから抱きしめられてよく眠っていた
どれほど安眠できるか。忘れたくても忘れられないそれが突然再び感じられて全身が沸騰するかのようだ
何とか取り繕い平静を装うけど、今度は甘味を食べに行くから一緒に行かないかと誘われる
いつでもどこでも優しいのは変わらない
継子の私のことも気にかけてくれる優しい人
笑顔でそう誘ってくれたけど、私は同じように笑顔を作ると首を横に振った
「…ありがとうございます!でーも!そんなご夫婦の時間に継子の私が入ったらおかしいですよ。ふふ。それこそ野暮ってもんです。四人で行ってきてください!ついでにたまにはお外で食事でもされてきたら如何ですか?正宗たちには私が何か作りますので。」
「…いいじゃねぇか、別に。お前も来れば…」
「師匠が良くても奥様たちは良い気分じゃないかもしれませんよ?夫婦の時間は大切にしてください。お気遣いありがとうございます!湯浴みをしてから出かけてきますね。」
そう言うと私は逃げるようにその場を後にした
此処にきたばかりの時は彼らを見ても何とも思わなかった
でも、今は…
宇髄さんにあんなにも愛されてしまうと
仲睦まじい夫婦の四人を見るのはツラい
だから出来るだけ視界に入れたくないんだ