第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
それなのにほの花への苛つきは消えることはなく、日に日に増していくばかりだった
「おはようございます!師匠!」
朝、鍛錬を終えたほの花が元気に声をかけてきたが、振り向いた先にいたのは汗に濡れて妙に色っぽい女
ドクンと胸が跳ねたのを気にしないように取り繕い、ほの花と向き合った
「おお、終わったか?準備運動は」
「はい!師匠、手合わせしてくださいよ〜!」
「駄目に決まってんだろ?お前は病み上がりなんだぞ、暫くはその準備運動だけしてろ」
「ええ〜…?」
「ああ、心配しなくても一週間後には鍛錬を十倍にしてやるからよ。」
「ひょえぇ…、そうでした…。分かりましたぁ。では、しのぶさんのところに行ってきます!」
そう言って深々と頭を下げて部屋に戻ろうとするほの花の腕を掴むとこちらに引き寄せた
不意打ちに引き寄せたのだから受け身も取れずに俺の胸に後ろから飛び込む形になったが、難なく受け止めてやる
大して重くもないし、自分が引き寄せたのだからこうなることくらい想定済みなのに、慌てて離れると高速で頭を何度も下げ出すほの花が面白くない
「す、すみませんすみませんすみません…!受け身が取れずに…!」
「別に構わねぇよ、何時に帰ってくる?」
「え…へ?わ、私ですか?」
お前以外此処にはいないというのに何故そこまで驚くのか不思議だが、呆れて頷いてやると大きな目をパチクリと瞬かせ、少しだけ目線を下げた
「…あ、えと…夕方には帰ってきます」
「何だよ、もっと早く帰ってこれねぇの?」
「…?何故ですか?」
「アイツらを甘味食いに連れてってやるんだわ。お前も来ればいいじゃん。」
それは昨日、突然須磨からねだられたこと
最近全然連れて行ってやってなかったから二つ返事で了承したが、真っ先にほの花も連れて行ってやろうと思ったのに、この通り胡蝶のところへ行くと言う
どうやらほの花は薬師としてかなり認められているのか此処に来た時よりも格段に忙しい
いつの間にこんなに頼りにされるようになったのか?過程が全くわからないが、自分の継子が認められているのは嬉しいとは思う