第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
幸か不幸かほの花と俺は部屋が隣
自分の部屋に行くには嫌でもほの花の部屋を通らなければいけない
今頃ぐっすり寝ているのだろう
あれほど眠いと言って脱兎の如く部屋を出て行ったのだから
枕が変わると眠れないのだろうか
もしそうならば枕を持って行ってやれば良かった。
万が一、またこういうことがあれば師匠として枕くらい持って行ってやるくらいの配慮はしてやらねばならないだろう
ほの花の部屋の前で立ち止まると襖をじっと見つめる
この奥にはほの花が寝ているだろう
どうせこの先に行ったとしても寝ぼけて恋人の男と間違われるのが関の山
正直、誰かの代わりにされるなんてまっぴら御免だ
そもそも…継子の恋愛に口を出すのはやりすぎなのだろうが、気になるもんは気になるし、ほの花には俺が認められるような男じゃないと嫁になど出さない…
これでは父親ではないか
いや、認められるような男とはどんな男だ?
男前で
強くて
優しくて
経済力があって
誰よりもアイツを愛してやれる奴
そんな男がいるもんなら出てこい
派手に上から下まで見定めてやる
この条件ほぼ俺だろ?!
だから俺くらいほの花のこと考えてやっていて男前で強くて優しくて経済力ある野郎じゃねぇと認めない。
適当な男だったらド派手に反対してやる
絶対に認めない
その恋人だって俺に認められなきゃ、結婚なんて出来やしなかった。
アイツはこの俺の…継子なんだから
「あれ?天元様、どうしたんですか?そんなところで突っ立って」
床に足がくっついたかのようにそこで動けなくなっていた俺はまきをの声でハッと我に返る
「…何でもねぇよ。襖に傷があるかと思ったんだけど、勘違いだったわ」
「そうですか?ほの花さん、寝てるなら静かにしてあげてくださいよ〜?」
「わぁーってるわ!」
俺には嫁が三人いる
大切な嫁だ
里から出てきた時、コイツらがいなければ乗り越えられなかったかもしれない
たかが継子のことで何をこんなに一喜一憂しているのだ?
大事なのは三人の嫁であってほの花じゃねぇだろ?
継子として心配してるだけだ。そうだろ?
そう思い直すと自分の部屋に向かった