第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「いや〜…確かにほの花様最近色気付いたなぁって思ってたんですよねぇ、納得だなぁ!」
「ご両親が健在でしたらさぞお喜びになられたことだろうなぁ…」
「でも、隠し事ができるような性格ではないはずなのによく隠してたなぁ…ほの花様」
ほの花が眠いと言って出て行ってしまってから、元護衛たちが口々にほの花の恋人話をするので否が応でもそれが耳に入ってくる
聞きたくない
そんなもんどうでも良いと思う一方で
知りたくてたまらない自分もいて変な気分だ
「…あーあー、じゃあさっき一緒にいた子は本当にただの同期くんだったんですねぇ〜」
須磨が残念そうにそう言って口を尖らせるが、そこはただ同期でいいだろうが
恋人候補なんていらねぇ
「ちょっと須磨〜?!でも、あんたのせいでほの花さんがツラいこと思い出す羽目になったのよ?!反省しなさいよ!」
「だ、だってぇ!!ほの花さんあんなに美人なのに恋人がいないなんてもったいないって思ったんだもん〜!!」
「二人ともやめて。ほの花さんだって話してくれたってことはもう吹っ切れていらっしゃるとは思うけど、これ以上蒸し返すのはやめてね。」
「「はーい。」」
吹っ切れてるか…。
どうだろうな。それは違うかもしれない。
そうでなければ昨日のあの表情は納得ができない。
まだ好きなんだ、その男のことが
夢でも会いたいと思うほど
俺のことは手を繋いだだけでも振り払うくせに、自ら手を伸ばして求めたほの花はお世辞でなく綺麗だった
あれが俺に対してだったらどれほど良かったかだなんて考えてしまうのは間違だてるとわかってる。
でも、可愛がってる継子が知らないうちにどこの馬の骨かも分からない男に手篭めにされたなんて腹立たしいにもほどがある。
誰の許可を取って手篭めにしやがった?
俺の継子に手出そうなんざ、百万年早いだわ。
俺は一言も口を挟むことなく、朝餉を食べ終えると「ご馳走さん」と言って部屋を出た。
聞いていられなかった
これ以上、ほの花の恋人との話なんて聞きたくもなかった