第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
"自信持てよ"
何で宇髄さんまで言うかな…?
せっかく吹っ切って"継子として"、"薬師として"頑張ろうと思っているのに…。
そうやって恋人の私に言うみたいなこと言わないでほしい
自信って何?
そんな物に自信を持ったとしてもどうしようもない。
私はあなた以外と添い遂げる気はないし、約束もした。
いくら着飾っても、綺麗と言ってくれてもそれは恋人としてじゃないでしょう?
それならば別にそんな賛辞いらないし、言わないでほしい。
だってまた欲しくなっちゃう。
宇髄さんが欲しくなっちゃうよ。
それでは何のためにこんなことをしたのか分からない。
私はただの継子
ただの継子なんだから
やめてよ、お願い
継子として、薬師として頑張るから
私のことをこれ以上好きにさせないで
諦めようとしてるんだから
あなたのことを
「…馬鹿みたい、私…」
乱雑に布団を出せばしまってあった膝掛けがひらひらと落ちてきた。
それは瑠璃さんが作ってくれた薄紅色の膝掛け
宇髄さんからもらった物を引き裂いちゃったからと言ってわざわざ作ってくれたそれ。
「…瑠璃さん…」
『あなたのために命を懸けることがあっても大人しく守られてなさい。』そう言ってくれた瑠璃さんの言葉が思い出される。
隊服を脱ぎ捨てて、夜着を着て膝掛けを体に巻きつけてそこに潜り込むと布団を頭まで被った
「…できなかったよ、瑠璃さん…守られるだけなんて…耐えられなかった…!ごめんなさい…」
もう泣かないと決めたのに何でこんなに涙が溢れてくるの。
会いたい
会いたいよ
瑠璃さん
会って話を聞いてほしい
でも、会ったらきっと言われる気がする
「馬鹿ね」って。
それでもいい。
もう二度と私を愛してくれた宇髄さんには会えない。
会えないけど守れる
これで守れるんだ
大好きな彼を
落ち着け、それでいいじゃないか
溢れ出てくる涙を拭わずに布団に押し付ける。そうすれば誰にも泣き声も涙も見られない。
悲しくなんかない
これは望みが叶ったことへのうれし涙だと心に言い聞かせた
そうしなければ自分が壊れそうだった
私は膝掛けを巻きつけた体を自分で抱きしめた