第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
『秘密です』と言ったほの花の顔が儚げで思わず抱きしめたい衝動に駆られたけど、グッと堪えた。
可愛がってるただの継子だ。
抱きしめることくらいしてもいいかもしれないけど、自分の感情に自信がない
何かが始まってしまう恐ろしさを感じていた
拳を握りしめることでその衝動を受け流すと目の前にいた隆元がぽつりと話し出す
「いやー、話蒸し返して申し訳ないですが、ほの花様の初めての恋人…会ってみたかったなぁ…」
「…あはは…ごめんって…」
「は?初めて?お前、初めてだったの?」
突然、放たれた言葉に俺は鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。
まさかそんな…?
隣に座ってる女ときたら…第一印象で恋に落ちる野郎は数知れずと言った見た目をしている
コイツに恋人なんていらねぇだろ!と言ってしまったが、それは"今は"の話であって、過去のことは別問題
まさか初めてできた恋人がその男だったなんて想像すらできなかった。
しかし、隣で大きな目をまんまるくしてくしゃりと笑うと「はい」と頷いたほの花に俺はまた奥歯を噛み締めた。
要するにその男はほの花の初めてを…もらったのだろう
そんなことまで此処で聞けやしないが、
初めての恋人
初めての逢瀬
初めての口づけ
そして初めてのまぐわいも…
その男に捧げているだろう
恋人と呼ぶのであれば、やることはやってるはずだ。
「里では全然男の人に相手にされなかったので…その人が初めての恋人です。そんな驚かなくても…。三人も奥様がいらっしゃる師匠と違ってどうせお子ちゃまですよー!」
ぷぅーっと頬を膨らませるほの花が何だか可愛いが、随分と特殊な環境に身を置いていたのは一目瞭然
一般的な美的感覚がズレてる男しかいない里だったのだろうか?
こんな女がそばにいたら俺なら確実に手を出す。
最初に目をつけて誰にも渡さず、自分だけのものにしちまうと思う。
「お子ちゃまっつーかよ…、お前の良さが分からねぇ奴のこと気にすんな。お前は美人だし、派手に良い女だ。自信持てよ。」
「…へ…?あ、あはは…、ありがとうございます…。あーー!私、もう限界です!眠くて!片付けて寝ます!おやすみなさい!」
しかし、突然、立ち上がって逃げるように出て行ってしまったほの花をそこで見送ることしかできず、ため息を吐いた。