第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
まさか煉獄さんと間違われるなんて流石に驚いた
それにしても宇髄さんは私の話を華麗に無視するかのように一言も話に入ってこなかったのに聞いていたんだな…とその時初めて知った
「…ふーん。じゃあ、誰なんだよ。俺の知ってる奴?」
興味ないみたいな感じなのかと思ったら、今度は誰よりも突っ込んだ質問をしてきて狼狽えてしまう。
誰なんだよ…って言われて
『あなたです』以外の返事はない
でも、それは絶対に言えないから
何て答えるのが正解なのか?
全くわからないまま…私は口角を上げると人差し指を口に付けて「秘密です」と言った
だって…それ以外答えようがないじゃないか
答えは宇髄さんだ
でも、それが言えない答えなのだから私が答えるべきものは何もない
それ以外の答えは持ち合わせていないし、此処まで来たらそこを嘘吐くのであれば更なる協力者を募らなければ困難を極める
そこまでしなくていい。
人を巻き込んでまで嘘をこれ以上吐き続けるのは私には手に負えない。
それならば、この話が嘘だと思われたとしてもこれ以上話すことはできない。
それだけのこと
「…そこまで言っておいて秘密かよ。シラけんな〜…。ま、いいけどよ。」
「ごめんなさい。私と彼だけの大切な思い出なので」
「はいはい、お熱いことでー。」
「師匠には負けますよぉっ!」
ふざけた返しをすれば呆れた様に笑ってくれたけど、その度に抉られていくように胸が痛む。
その痛みはいずれ無くなっていくものだけど、今はまだつらい。
三人の奥様との仲睦まじい姿を目の当たりにしなければならないのであれば、それは生き地獄と言っていい。
大好きな人たちの夫婦仲が良くて素直に喜べない私が嫌い
自分でこんなことしておいて生き地獄なんて言ってしまえる自分が被害者ぶってて大嫌い
嫌い嫌い大嫌い
早く時が流れてしまえ
そうして人生が終われば新しい人生でもう一度彼と恋がしたい
こんなことしておいてもう二度と出会えないかもしれないけど、それでも希望を持つことくらいは許されるはずだ
ツンとした鼻の痛みを隠すように、すっかり冷めてしまった味噌汁を飲み干すと溜まった涙のせいかしょっぱく感じて、慌ててご飯を口に入れて涙ともに飲み込んだ。