第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
腹が立って酷いことを言ってしまいそうだったから黙って聞いていたらほの花の衝撃的な一言に静まり返る空間
流石に見ないようにしていたほの花の顔を見てしまった
でも、彼女はそれを受け入れていると言わんばかりに悲しそうに笑っている。
「え、あ…、ご、ごめんなさい…」
「いいんです。彼は私の心の中で永遠に生き続けますから。ずっと、ずーーっと彼を想って生きていきます。」
「…ほの花さん…」
「湿っぽくなってしまいましたね!ごめんなさい!大丈夫です!彼との思い出は楽しいものばかりですから!」
要するにほの花が身に付けているのは形見のようなものということか
好きだった男が死んで、そいつにもらった物ってことか。
しかし、最近亡くなったときいて真っ先に思い浮かんだ男の存在に気づいてしまった。
(…まさか…、いや、でも…?鬼殺隊だったならば何故それを理由に別れたのだ?)
思い浮かんだ男とほの花の接点が見当たらないし、それならばあの男が隠すわけがない。
やはり違うだろうか。
でも、有耶無耶にするのが嫌で久しぶりに口を開いた。
「…まさか、煉獄じゃねぇよな?」
「へ…?え?!な、何言ってるんですか!煉獄さんなわけないです!!私、彼とは三回ほどしかお会いしたことないですよ!尊敬している炎柱様です!」
突然俺が話し出したことで狼狽えているが、内容自体は嘘をついているようには見えないので恋人が煉獄だという線は消えた。
俺の知らない一般人ということになるが、ほの花が美人なのは分かっていたし、男が放っておかないような魅力的な女だと思っていたからこそ恋人がいたということ自体は腑に落ちる。
だけど、それを知らなかった上に、恐らく昨日の夜俺と間違えた男は恋人だった男に間違いないことが苛ついて仕方ない。
「会いに来てくれたの?」なんて死んだ奴だったならばその言葉を使った理由もわかる。
死んだから夢で会いに来てくれたんだと思ったんだろ?
どれほどその男を好いていたかあの時ほの花から溢れ出ていた甘い空気感で一目瞭然だった。
先ほどまでぶっ殺したいと思っていたのに、今はほの花をあれほどまでに想われているその男が羨ましいとすら感じてしまう俺は頭がおかしいとしか言いようがない。