第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
ほの花に恋人がいた?
正宗達ですら知らないと言うことだけが救われるが、何故言わなかった?
というか何故気づかなかった?
でも、ほの花が恋人がいたことがあるというのが分かれば、昨日の甘えた表情も納得できる。
俺には向けたことのないあの表情が誰に向けられていたのかということもその存在を知ってしまえば明白だ。
「あ!ひょっとしてその髪飾りもその方にもらったんですか?いつも付けてますもんね?」
まきをがそうやってほの花の髪についている花飾りを指差して笑ったことで、チラッとそれを見遣る。
確かにいつも付けているが、それを見ると不思議と穏やかな気持ちになれていたのに、男からもらった物だと分かると途端に忌々しく見えてくる。
「その耳飾りもですか?お揃いみたいですもの。」
雛鶴までもがほの花の装飾品を食い入るように見出したのでギリッと奥歯を噛み締めた。
それは確かにほの花に良く似合っている。どちらもコイツに似合いそうな物をその男が選んだのだと言うことがよく分かる。
だが、俺だってほの花に似合う物くらい分かるし、こんなものよりもっと似合う物を買ってやれる。
そう思い始めて再びその心の葛藤がおかしなことだと思い留まった。
関係ないだろう?
コイツはただの継子だ。
いくら可愛がっていたとしてもその男と張り合うのはおかしすぎる。
「あはは…そ、そうなんです。物に罪はないので…頂いたものは大切にしています。とても気に入っているので…。」
「とっても似合ってますよぉ〜!じゃあ朝の彼は次の恋人候補ですかぁ?」
「いえ…彼は本当に同期の友達です。恋人とお別れしたのが最近なので傷心の私を心配してくれて付いてきてくれたんです。」
いつそんな男がいた?
どこで出会った?
どんな野郎だ?
何故俺に一言も言わなかった?
感情が追いつかないほど動揺している。
ほの花は俺の継子だ。
百万年早いとは言ったが、いつかはコイツだって嫁ぐ時が来るかもしれない。
だけど、それが此処まで嫌だと思うのは何故だ
わけが分からない
兎に角、今俺は死ぬほどその男をぶっ殺したい