第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「あれ、ほの花様お戻りでしたか?おかえりなさいませ。」
朝餉の手伝いをしていると正宗達に声をかけられた。その顔を見るとホッとする。
やはり彼らは昔馴染みで気を遣わない間柄
宇髄さんともそんな関係性を築けたら良かったけど、私には荷が重すぎたのだから仕方ない。
「うん。ちょっと体調悪くなって蟲柱様のところで休ませてもらってたの。」
「え?!落ちてる物を拾って食べたんじゃないですよね?!」
「ちょっと!?私の事なんだと思ってんの?」
「ですが…昔…」
「しっ、黙って!!」
落ちてる木の実が美味しそうに見えてうっかり食べて食中毒を起こしたのは昔の話だ。
今はそんな事しないし、いい大人なのだからすると思われるのも癪なのだが…
正宗達まであの薬を飲ませる事なかったかもしれない
でも、優しい彼らに私のことで気を揉ませたくなかった
この作戦を知ったらきっと正宗達も気を遣わせる羽目になっただろうから
座卓におかずが殆ど並べ終わった頃、お椀に味噌汁をよそっていると湯浴みを終えた宇髄さんが入ってきた。
湯上がりの彼は一段と色気を醸し出していて心臓の拍動を落ち着かせるのに必死になる。
「天元様、ごはんどうぞ。」
「おー、ありがとな。まきを。」
隣でごはんをよそっていたまきをさんからお茶碗を受け取った宇髄さんが私に視線を向けた気がしたが、気付かないふりをしてお味噌汁をよそい続けた。
見ないで
悟られたくないからお願い
しかし、人数分の味噌汁をよそうなんて大した時間かからないのは当たり前で、終わってしまうとそれを全員の前に置いてお役御免だ。
幸いなことに彼とは隣同士で座るのだけが救いだ。目の前にいるとどうしても彼の顔を見なければいけないけど、隣ならば顔を見ることはできない。
いつもの席に腰を下ろすと「いただきます」と各々朝餉に手をつける。
味なんてよく分からないほど緊張するけど食べないと怪しまれるし、何とかそれを胃に流し込むけど、息苦しくなるほど気まずい。
そんな私に声をかけてくれたのはまたもや須磨さんでニヤニヤしながら此方を見ている。
「あのぉ…ほの花さん?」
「え…?はい。」
彼女から出た言葉に驚かされるのはこの数秒後の話
それは青天の霹靂だった