第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
手を引いて此処まで来てしまったと思っていたけど、いつの間にか善逸が手を引いてくれていような気にもなった。
私がひとりぼっちにならないように
彼は…きっとひとりぼっちの寂しさを知ってる人
だからあんなにも臆病でこんなにも優しい
私の寂しさや悲しさを自分のことのように悲しんでくれる彼に救われた
彼は私なんかよりずっとずっと強い
「善逸、ありがとうね。」
「な、な、いいんだよぅ!!女の子に優しくするのは当然のことだよ!!」
「それでも…私は救われたよ。じゃあ、屋敷はもう此処だから…。気をつけて帰ってね?道わかる?音花に道案内させようか?」
「だだだだ大丈夫!!あの…また来てね?」
チラッとこちらを見る善逸は捨てられた仔犬のように可愛くて思わず頭を撫でてしまった。
キョトンとした顔をした後、照れ臭そうなに笑った彼にコクンと頷くと「また明日行くね」と伝えて手を振った。
きっと彼は私が見えなくなるまで手を振ってくれる
そんな優しさに溢れている
炭治郎も伊之助も善逸も
優しさの塊だ
それぞれの優しさをそれぞれの方法で示してくれる
私の大切な仲間達
既に七時頃だと思われるのでコソコソ庭から入るより正面から入ろうと思い、玄関を開けて小さく「ただいま戻りました…」と言ってみる
宇髄さんはまだ帰っていないのだろう
私は履物を脱ぐと自分の部屋に真っ直ぐ向かうと「ほの花さーん」と声をかけられた。
振り返る先にいたのは天真爛漫で可愛い奥様の一人
「須磨さん!すみません…昨夜は突然…」
「いいんですよ〜!大丈夫ですか?天元様まで突然いなくなっちゃって驚きましたけど、無事に帰ってきてくれて良かったです〜!」
「は、はい。ちょっと部屋で休んだら朝餉の支度を手伝います!」
「そんなのいいのに〜」と肩をツンツンと突っついてくる須磨さんの様子に首を傾げる
一体どうしたのだろうか?
確認をしようと口を開きかけた時、「ほの花ーーーーー!!!テメェエエエエッ!」という怒声が屋敷中に響き渡って、背筋が凍りついた
「あ、天元様帰ってきましたね!」
目の前にいる須磨さんはそう言って可愛い笑顔を向けてくるけど、私は悪寒しかしない。
深いため息と共に肩を落とした。