第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
善逸の手を引いて宇髄さんの屋敷付近まで来てしまったけど、そこで漸く気づいた。
「…あ…?!え、ご、ごめん…!もうすぐ屋敷なんだけど…!私、送らせたみたいになっちゃったじゃん…!ちょっと待って、送るわ!」
「いやいやいやいやーーー!!いいってー!!何言っちゃってんのぉ?!女の子なんだし、病み上がりなんだから良いんだよ!!心配だったし!毎朝散歩してるからついでだったし!!」
「で、でも…」
病み上がりなのは善逸だって同じこと
いくら機能回復の一環で散歩を始めていたとしてもこんなところまで歩かせた上、私の愚痴に付き合ってもらったに過ぎないし、果てしなく申し訳ない。
「いいのいいの〜!あ、それならさ!今度、鰻食べに行こう!!もちろん炭治郎達も一緒に!もう音柱の人に怒られることないでしょ?!行こうよ!」
──音柱に怒られることないでしょ?
確かにそうだ。宇髄さんがもう嫉妬してくれることなんてないし、怒られることもない
でも、そう考えると寂しいだなんて思ってしまうのはまだ日が浅いからだ。
時が解決してくれるはず
「…ご、ごめん…」
しかし、途端に善逸がしょぼんと項垂れてしまったので驚いて立ち止まった。
「え、え?!ど、どうしたの?大丈夫?」
「…ごめぇん…、ほの花の音が、悲しくなった…。音柱の話出してごめん…。」
ああ、そうか。
善逸は耳が良いって言ってた。宇髄さんも良いけど、善逸の耳の良さは更にすごい。
人間の感情まで読み取れるなんて、今まで随分とつらい思いをしてきただろうに…
そう考えると私の一喜一憂で気に病ませたことが申し訳なくて彼の肩に手を置いた。
「こっちこそごめんね。大丈夫!その内、気にならなくなるよね!今は…まだつらいけど、私がつらいって言うことが間違ってる!自分で選択したんだから。善逸を気に病ませてごめんね。鰻楽しみにしてる!炭治郎が早く全快するといいね!」
そうだ、つらい悲しいって言うこと自体間違ってる。
涙を流すなんてもっての外
それよりも自分が作り出したこの世界を何とか死守することに専念しよう
それが回り回って
宇髄さんのためにも
自分のためにも
鬼殺隊のためにもなるのだから