第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「あ…!そうだ…、宇髄さんが迎えに来ると言っていたので…私は帰ります!」
待っていなければいけないと思いつつ、そうなれば彼のことだから病み上がりだからと言って抱えてくれるかもしれない。
いや、確実にそうする。
触れられるとどうしても私はドキドキしてしまう。心臓の音が大きく拍動してしまえば自分の気持ちに気付かれてしまう。
「ええ?!居なくなっていたら怒りませんか?」
「"此処であまり眠れなかったから家に帰った"と伝えて下さい…!お願いします!あまり近くにいたらドキドキしてるのバレちゃいますもん…!」
「そういうことですか…。それならば承知しました。お気をつけてお帰りください。」
寝台から飛び降りると腕を組んで天井に向けて伸びてみる。
窓から入ってくる朝陽が眩しいけど、スッキリした体はその光が栄養のように体に染み渡る。
私は着替えるとしのぶさんに御礼を言って、足早に蝶屋敷を出た。
しかし、屋敷を出てすぐに「ほの花〜!」と聞き覚えのある声に呼び止められた。
振り返った先にいたのは黄色い頭に雀が乗った少年
「あれ?善逸じゃない!どうしたの?」
「どうしたの?じゃないよぉおっ!ほの花こそ大丈夫なの?!昨日、凄い熱だったよね?!もう動いていいの?しのぶさんに怒られるよ?!」
何故そのことを知っているのか分からない私はキョトンと首を傾げるが、モタモタしていると宇髄さんが此処に到着してしまうかもしれない。
私は「歩きながら話そう?!」と言って善逸の手を引っ張って歩き出した。
「え、ええ?!こ、これって逢引ってヤツだよねぇええ?!え、ど、どうしよう…!け、結婚しかないかなぁ?!」
「落ち着いて〜…何で善逸は私が昨日発熱してたこと知ってるの?」
「あー!それは…、しのぶさんが玄関先でほの花を運んでるのを見て手伝ったからだよ!」
「えええ?!そうだったの?!ありがとう…!ごめんね?」
まさか善逸にまで迷惑をかけていたなんて知らなかった。そうと知っていれば声をかけてから出て行ったのに…。
本人に言わせてしまったけど、知れてよかったと胸を撫で下ろす。