第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
宇髄さんは結局、私が寝付くまでそばにいてくれたみたいで気がついたら朝を迎えていた。
ふと壁にかけられた時計を見ると六時前を指している。
ゆっくりと起き上がると、昨日の体の怠さは消えていて頭もスッキリしていた。
もう一眠りしようか迷っていると扉が開く音がした。
「あら、もう起きていらっしゃったんですか?おはようございます。」
「しのぶさん…!」
「今日は私が夜の見回りだったので夜も見に来ましたけど、すっかり夜中には熱は下がっていましたよ。」
それでも「念のため…」と額に手を当てて熱の確認をしてくれるしのぶさんに昨日のことを話してみることにした。
「…宇髄さんが…来てくれました。」
「ええ、知っています。物凄い速さで来ましたよ。本当に記憶が無くなっているか疑問に思うほど…」
「……無くなって…ますよね?無くなってるはずです…!」
自分に言い聞かせているようにそう言えば、眉間に皺を寄せながらも頷いてくれるしのぶさんにホッとした。
「記憶は…無いと思いますが、体が覚えてるんですよ。貴女との思い出を…。暫くはこう言うことが多々あるかもしれませんが、動揺したら気付かれますよ。彼は柱なんですから」
「…そうですね。気をつけます。」
「本来なら必要以上に接触しない方がいいですが、そうも言ってられないので十分に気をつけて下さいね。治癒能力の件もです。次は誤魔化し切れないかもしれないのでほどほどに。」
「…わかりました…!産屋敷様の件は週に二度行くことにしたので一気に使うことは無いので今回みたいに突然発熱することは無いと思います!」
流石に今回は一度に数分間も使ってしまったがために無茶をしすぎたと思う。
しかし、あれだけ使わなければならないほど産屋敷様の体は悪化していた。
薬だけでは持ち直すのに数週間とかかっていただろう。そうなれば元々体力がない産屋敷様が耐えられるかどうかと言う問題にもなりかねない。
いずれにせよ使わなければいけなかった。
「少しずつ使ったとしても負債は体に残ります。前のように。立て続けに体調が悪くなれば怪しまれますので本当によく考えて使ってください。いいですね?」
しのぶさんの忠告は最もだ。
今の私は四面楚歌
どう転んでも取り繕う必要が出てくる。
自分を守れるのは自分だけだ