第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
ボーッとした表情で手を伸ばすほの花がふわりと笑うので吸い寄せられるようにその手を取って握った。
それなのに覚醒したのか途端に手を引っ込められたことで俺の手は宙を彷徨ったまま置いてけぼりを食らう。
しかも、出てくる言葉と言えば"放っておいてくれ"と言わんばかりの内容ばかり
俺のことを突き放しているようにも感じられるその対応にムッとしたが、それよりももっと腹が立ったのは"私なんか"って言ったこと
どうでもいい奴だったら見舞いに来たりしない。
どうでもよくないから来た。
大事な…継子だから
「何とか言えよ、馬鹿ほの花」
放心状態で口を開け広げてこちらを見ているほの花にそういえば、慌てて言葉を探し出した。
「あ、いや…ありがとう、ございます。すみません…そういうつもりじゃなくて…忙しいのにわざわざ来てもらって申し訳ないな…と思っただけです…」
「あと少ししたら任務に出かける。それまで此処にいるからお前は寝てろ。」
「え、…は、はい」
動揺しているようだが、今度は素直に頷き寝台に横になろうとしたので体を支えてやる。
でも、そうして近づいたらふわりと香る匂いに既視感を感じた。
どこで嗅いだ…?
つい最近…
そうだ…、自分の布団だ。何故か分からないがこの匂いがした。
ほの花の匂いだったのか…
雛鶴でもない
まきをでもない
須磨でもない
あの安心感の正体はこの匂いだったのか
細い身体を支えて寝台に横たえてやると布団を目深に被りこちらをチラッと見ている。
(…まぁ、起きちまったら人がいたら寝にくいか。)
そう思ったのに体はそこに縫い付けられているかのように動かない。
此処に居たいと金縛りにあっているかのようだ。
仕方なく手拭いを手桶に入れて冷やしてそれを絞ると額に乗せてやる。
何かをしてないと気まずい空気が流れてしまうからだ。
「…お前…、俺の布団で寝たことあるか?」
何か喋らなければ気まずい空気が流れてしまう。
そう思って発した言葉はあまりに突拍子もないことでほの花はその大きな瞳をこれでもかと見開いてキョトンと首を傾げた。
いや、寝たことあるわけねぇだろ。
勘違いに決まっている。
それなのに何で聞いた?
自分で自分が分からない