第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「胡蝶、ほの花は?」
「宇髄さん…、随分と…お早い到着ですね?」
「そ、そりゃあ…、お館様から預かった可愛い継子だからな!」
あまりに到着が早くていつもの宇髄さんと見間違えてしまいそうだったが、どうやら彼の中では恋人期間は抹消されているようで少しだけホッとした。
「…今は眠っていますのでお帰りください。だから文を届けさせたのに何で来たんですか?」
「そう言われてもな…!か、顔くらい見て行ってもいいだろ?!別に減るもんじゃねぇしよ。俺の継子だぞ?」
「……煩くしないでくださいよ。」
必死に取り繕っているようだけど、体中からほの花さんが心配でたまらないという空気がビシビシと感じる。
頭では彼女は継子だと分かっているのだと思う。それはさすがほの花さんの薬の効果は絶大だ。
だけど、薬は心までは変えられない。
彼もまた抗っているのかもしれない。
受け入れ難いこの事実を脳と心がせめぎ合ってるいるのだろう。
ほの花さんも宇髄さんも少しばかり時間が必要だ。恋人期間だって頃の心境を心が忘れるまで暫くはこう言ったヤキモキする感情が散見するのは仕方ないだろう。
宇髄さんを連れてほの花さんの病室に入ると、寝台に真っしぐらに向かった彼は心配そうにその姿を見つめている。
額に触れるとこちらを向いて「それ貸してくれ」と私の手元にあった手桶を指差した。
此処で騒ぐとほの花さんが起きてしまうかもしれない。仕方なくそれを渡すと宇髄さんは迷いなく手拭いを氷水で冷やすと、それを額に乗せた。
「…結構、酷えじゃん。」
「ええ。ですが、すぐに治ると思います。明日の朝にはお返しします。」
「迎えに来るから此処で待ってるように伝えてくれ」
あまりに自然にそう言う宇髄さんに最早驚きはない。
「…暫く此処に付き添うからよ。お前はいいぜ?俺が此処にいる。」
「…任務はいいんですか?」
「小一時間居たらすぐに向かう。心配しなくても起こしたりしねぇよ。」
断る理由はない。
いや、此処で断ったら逆に怪しまれる。
恋人でないにしろ彼は柱だ。
洞察力に長けているのだから。