第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「え、え、あれ、え、…ほの花っ?!えぇ?!」
何故此処にいるかは分からないけど、入院着を纏っているところを見るに体が鈍らないように屋敷の中を散歩でもしていたのかもしれない。並外れて耳がいいらしい彼のことだから音が聴こえて来てくれたのかもしれない。
「…我妻くん。ほの花さんを運ぶので手伝ってくれますか?」
「あ、は、はい…!!」
怪我人に無理をさせるわけには行かないので片側の体を支えてもらおうと思っただけなのに迷いなくほの花さんを背負ってくれた彼に意外な男らしさを垣間見た。
「うわぁ、あっち…!ほの花、大丈夫?死なないでぇええ…!」
「…熱発してますが…死にませんよ。少し休めばすぐ良くなります。こちらにお願いします。」
「は、はい!」
アオイに部屋を用意させて良かった。
目眩がするくらいだと思っていたが、昨日の今日で記憶のない宇髄さんを見るのがツラいかもしれないと踏んで、泊まって行ってもらっても構わないと思っていた。
だけど…
(…これでは帰るに帰れませんね)
気を遣って泊まって行ってもらうと言うよりも帰れない。
こんな体で帰ったらいくら記憶がなくとも心配させるだけだ。
鴉を飛ばして此処に泊まる旨を伝えた方がよさそうだ。
我妻くんを促して、病室に入ってもらうと彼女を寝台に横たえる。
「ほの花〜!ほの花〜!しっかりしてくれよぉ〜!死なないでねぇええ?!お願いだから、ねぇええ!?」
「我妻くん…?とりあえずありがとうございました。煩いので部屋に帰ってもいいですよ?」
「しのぶさん〜!ほの花大丈夫ですかぁああ?!体が、あ、あつ、あつあつくて…!し、死んじゃううううう!!」
予想できなかったわけではないが、あまりに煩いその姿に顔を引き攣らせた。
診察もしなければいけないのにこれでは邪魔でしかない。
「我妻くん、またお手伝いを頼みたい時は声をかけます。今から診察もしたいのでとりあえず出て行ってください。」
「あ、…はい。すいません。」
鼻息は荒いままだが、何とかこちらを気にしつつ部屋に帰って行った彼を見て盛大なため息を吐いた。