第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「蟲柱ーー!!ほの花カラ伝言ーーッ!今カラ来ルーー!!」
ほの花さんの鎹鴉の音花がそう言って飛び込んできたのは夕方のこと
今日は朝から来ていたのでもう来ることはないだろうと思い込んでいたので驚いたが、此処に寄る理由なんて一つしかなくて眉間に皺を寄せた。
お館様の調合の帰りに此処に寄るということは要するに彼の調子があまり良くなくて、力を使ってしまったということだ。
「…と言うことは…ほの花さんも良くないかもしれませんね…」
誰もいない部屋に自分の声だけが響く
宇髄さんには様子を見て私から鴉を飛ばしておけばいいだろう。
恋心はもう無いはずだし、此処に泊まっていようが居場所さえ分かっていれば特に問題ない筈。
そこまで考えると彼の記憶を消したことでいろいろとやりやすくなった面もあると自覚してしまう。
今までは宇髄さんがほの花を溺愛していたことで少しの変化でも気づいてしまうところがあって配慮に苦労した。
しかし、今はそれが必要ないとなると肩の力が少し抜ける。
自室を出るとアオイに念のため個室の部屋を準備するように伝えて、玄関先まで出て待つことにした。
今朝方も彼女が此処にやってくるだろうと思い、心配で待っていたのは記憶に新しいが、一日に二度も同じ出迎えをするなど初めてのことだ。
橙色と薄紫色が混ざる空に雲が流れていく中、角を曲がって壁伝いに歩いてきた栗色の髪の彼女に目を見開いた。
「…ほの花さん…?」
背中に汗が伝う
目眩とかあるかもしれないとは思っていたけど、肩で息をする彼女は見るからに熱発しているようだし、それはそこまでしなければならないほどお館様のお体が悪化していたと言うことに他ならない。
何とか歩いている彼女の元に近寄るとその腕を掴んだが、此方を少し見ると虚ろな目は完全に閉じてその場に倒れ込んでしまった。
間一髪支えられたので怪我をさせることはなかったが、思ったよりも体調が良くないらしい。
彼女を抱えようと思って腕を肩にかけようとした時、「しのぶさん?」と声をかけられた。
振り向いた先にいたのは黄色い髪の彼女の同期 我妻善逸くんだった。