第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「珠世さんのことよりも天元のことのが僕は申し訳ないと思っているよ」
ホッとしたのも束の間、産屋敷様がポツリと呟いたその一言で再び話が元に戻ったことに驚きを隠せない。
「…産屋敷様…」
「ほの花と添い遂げることを望んでいただろうに…鬼殺隊にいるばかりに二人につらい選択をさせたね」
「え…?!ち、違います…!鬼殺隊のせいでは…!」
私の配慮が足らなかった。
彼にこんなことを話せばそう思うのは仕方のないことだ。
でも、そうじゃない。
これは産屋敷様のせいではないのだ。
「…私もずっと違和感を覚えながら彼の恋人をしてきたんです。此処に自分がいてもいいのかずっと分からず、自信を持てずにいました。」
"自信を持て"
そういろんな人に言われたけど、彼の恋人として自信を持つことはとうとうできなかった。
それよりも継子として、薬師として、自信を持つ方が遥かに簡単だし、人の未来を変えずに済む。
「これは私の責任です。自分を信じてあげられなかった。彼の恋人だと胸を張って自信を持って言うことができなかった。」
「ほの花…」
「宇髄さんには素敵な奥様たちがいらっしゃいます。全て元に戻っただけです。私は彼の妻となる器ではなかった。それだけの話です。」
彼みたいな素敵な人が恋人だったという思い出ができた。それだけで私は生きていける。
全ての調合を終えると、私はそれを彼の目の前に置き薬箱を閉じた。
だから…産屋敷様が気にすることなど何もない。
全ては私の身勝手によるもの
宇髄さんも悪くない。
誰も悪くない。
「…産屋敷様、お薬ができました。今度からはいつでもすぐに呼んでくださいね。あまり具合が良くないようにお見受けします。」
「…そうだね。確かに少しずつ悪くなっているようだよ」
「もしよろしければ、週に一度ではなく、二度に増やしてもよろしいでしょうか?」
産屋敷様のことだ。
きっと…また気を遣って呼んでくださらないかもしれない。
しばらくの間は様子を見るために頻繁に来させてもらう方が賢明だ。
宇髄さんも産屋敷様のことであれば反対はしないだろう。