第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「珠世さんとは何度かお会いしていますが、鬼殺隊を裏切るようなことは一切しておりません。しかし、隊律違反であれば…どうぞお裁きください。」
それも致し方ないこと
今の私には失うものは何もない。
当主である彼の決定ならば宇髄さんも何も言えまい。
この場で首を斬られるのであればそれもそれ。
受け入れるしかない。
覚悟をして下を向き俯いていると産屋敷様が穏やかな口調のまま話し出した。
「ほの花、君が裏切るだなんて全く思っていないよ。君のことは信じているし、珠世さんのことは僕も黙認していた。彼女もまた…大きな声ではいえないが信頼に値する人物だと思っているよ。だからそんな風に思う必要はない。顔を上げて。」
それを聞いて、心の底からホッとした。
誰に疎まれても、恨まれても…当主である彼が珠世さんを認めているような発言は肩の力が抜けて思わず手をついて大きな息を吐いた。
「…っ、よ、よかっ、たぁ…。産屋敷様を……失望させるかと、思いました…。」
彼があの柱合会議の時、珠世さんを知っているような発言をしたのは忘れもしないが、それがどのような意味合いのものなのかずっと分からずじまいだった。
言葉の空気感から敵意を感じていたわけではないけど、心底信頼をしていると言う空気感も感じなかった。
だからこそ怖かった…。
炭治郎とだけ分かち合ってきたこの秘密も産屋敷様が知ってくれていると思っただけでも心強いと感じるのは当然だ。
だって彼が鬼殺隊の当主なのだから。
「それに…君はいま独り言を言ったんだよね?僕は聞いていないということにしておくよ。鬼殺隊の中には鬼と言うだけで拒否反応を示す子も多いからね。」
その言葉に私は大きく頷いた。
不死川さんはそれの最たる例だろう。
炭治郎の妹の禰󠄀豆子ちゃんに強い拒否反応を示したのは記憶に新しい。
いくら仲良くしてくれている私とても鬼と協力し合っていたなんてことを知られたら首を斬られるかもしれない。
挙げ句の果て、その鬼と共謀して愛する人の記憶さえ消したのだ。
それこそ万死に値する不義理な行為だと誰もが思うだろう。