第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
産屋敷様に体温計をお渡しすると腋窩に挟んでくれたので、その間に薬の準備を始める。
「発熱されたのはいつからですか?解熱剤はお飲みになりませんでしたか?」
「あまねが言ったのかな?熱と言ってもそこまで酷くなかったんだ。微熱が続いていたというだけ」
「微熱も熱の内です。38度以上で飲むのが好ましいですが、続いているならば一度飲んでもらっても良かったですよ。」
そう言うと少し調整をした解熱剤を産屋敷様の前にお出しした。
普通の人ならば38度以上で飲むところだが、産屋敷様は体も弱っているし、少しの熱でも飲んだ方が楽だろう。飲みすぎなければ薬の力を借りた方が楽になれる。
「そうか…。こんなことならばほの花を呼んでおいた方が、天元とのことは防げたのかな…?失敗してしまったね。」
そう苦笑いをしながら薬を取ると口に流し込み、置いてあった白湯で飲んでくれた。
産屋敷様に呼ばれていたとしてもきっと私は機会を窺い、また飲ませていたと思うけどそれほどまでに私と宇髄さんのことを自分事のように考えてくれて感謝しかない。
「ほの花が…鬼殺隊のことを考えて決断してくれたのはありがたいよ。でも…天元のことを考えると不憫に思ってしまうね。命懸けで愛した君を失ったのだから。」
「…産屋敷様…。大丈夫です。宇髄さんには奥様達三人がいらっしゃいますし…私と一緒になるより幸せだと思います。」
「本当にそうかな?君は天元が初めて自分で選んだ女性だよ。君の代わりはいない。だからこそ天元は命に変えても守りたいと思っていたんだと思うよ。なによりも愛おしい大切な存在だから。」
飲み干した薬の包みを受け取ると彼の言葉をゆっくりと咀嚼する。
初めて…自分で選んだ…?
ああ、そういえばあの三人の方は親が決めた…って言っていたっけ。
でも、彼はあの三人のこともとても大切にしていたと思う。だからあんな命の順序を決めていたんだ。
私だけが特別なんてことはない。
あの三人の代わりに選んでくれただけの話。
「…来世は…彼のお嫁さんになれるように神様に願います。」
私の残りの人生は彼への贖罪と鬼殺隊に捧げよう。
恋愛はもう十分した。
十分
愛してもらった。