第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
蝶屋敷から三十分走って着いた先は見慣れた屋敷
産屋敷様のお屋敷だ。
上がってしまった息を整えると身だしなみを確認してから「こんにちは〜」と声をかける。
いつものようにすぐにあまね様が出てきて下さり中に入れてくださったけど、今日はどことなく元気がないように見えた。
「あまね様…?どうかされましたか?」
すると、悲しそうに微笑み「こちらへ…」と中に促された。
あまね様はあまり感情を面に出したりしない方
だからこそこんな風に元気がなさそうに見えること自体が珍しいのだ。
彼女の後に付いて行くと徐にぽつりと話してくれるが、その内容に私は目を見開いた。
「ここ数日あまり調子が良くなくて…熱もあるんです。」
「…え?!そ、そんな…すぐに連絡を下されば…!」
「止められていたのです。今日、ほの花さんが来る日だからと…。何卒…よろしくお願いします。」
いつの間にか着いていた産屋敷様の部屋の前であまね様は深々とお辞儀をするとその場から去って行ってしまった。
あまね様からそんなことを言われると言うことは余程のことだろう。
私は部屋の前で「失礼します、ほの花です」と声をかけると襖を開けた。
いつもは体を起こして待っていてくれた彼も今日は布団に横になったまま顔だけこちらを向けてくれた。
「ほの花…来てくれてありがとう。ごめんね。こんな格好で…」
「何を仰いますか…!すぐ呼んで下さって良かったのに…!」
「いいんだよ。昨日は花火大会だっただろう?天元と楽しんでいるんじゃないかと思ってね。」
まさか…私のために…?
宇髄さんと出かけているだろうと踏んで、敢えて言わなかったのだろうか。
もしそうならば、余計な気遣いをさせてしまって申し訳ないことをしてしまった。
「…産屋敷様…。」
それなのに…私は今からせっかくの彼の気遣いを無碍にするようなことを言わなければいけないのだ。
何という間の悪さだ。
「…私…、謝らなければ…いけないことがあります」
せっかく私のために自分の体を犠牲にしてくれていたというのに。
申し訳なくて顔が見られない。
産屋敷様の寝ている布団の隣に座り込むと薬箱を置き、彼の肩に手を置いた。
此れはお詫びだ。
あなたの優しさを無碍にしてしまったことに対しての
ごめんなさい。