第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
しのぶさんの部屋に向かうと座卓の上にたくさんの昼餉が並べられていて、彼女がこちらを向いて笑顔を向けてくれていた。
「二人が行きましたか?」
「はい。泣かれてしまいました。」
「ふふ…、罪な方ですね。ほの花さん。」
下を向いたままのしのぶさんだけど、その手は取り皿を並べてくれていた。
手伝おうと慌てて近付くと「お客様なのでお構いなく」と言われてしまい、彼女の前に大人しく座った。
そういえば宇髄さんが此処で先日昼餉を頂いた後、しのぶさんを家に招こうと言っていたのを思い出した。
そんなことを話していたのは恋仲時代の話で今の私としたわけではない。私だけでも彼女に御礼をしなければな…と考えていると目の前に取り分けてくれた料理を置いてくれる。
「お館様のことも…あなたに任せてしまっているのにこんなツラいことまでさせてしまって鬼殺隊の柱として謝りたいですよ。」
「ええ?!そ、そんな…!謝らないでください…!このことは私が…勝手に!」
「だとしても…鬼殺隊でなければあなたと宇髄さんは幸せな生活を今も送れていたでしょう。彼も本当はこんなこと望んでいなかったと思いますが、ちゃんと反対もしてあげられなくてごめんなさい。」
それはきっとしのぶさんの本心だ。
柱としての理性を優先させたことを謝っているのだと思うけど、そんなことは当たり前のこと。
むしろ私も鬼殺隊としての理性を優先させたからこのような結果になった。
宇髄さんとあのまま一緒にいてもお荷物になるだけだ。
恋仲であるのが知られていた以上、いつか鬼にそれを弱みとして握られることもあるかもしれない。そうなった時、万が一上弦の鬼が相手だった場合、私は自分の身を守れる自信がない。
宇髄さんが守ってくれてしまう。
──守られてばかりで何もできなかった…
炭治郎の言葉が頭から離れない。
煉獄さんは柱として後輩を守るのは当然だと言っていたと言う。
だけど、そんなのは嫌だ。
そこまで関わりがなかった煉獄さんが亡くなったことだけでも悲しいのに、万が一それが宇髄さんだったら私はもう生きていけない。
守ってもらって命を断つなんて絶対できない。
でも、彼がいない未来を考えるのはもっとできなかった。
それなら恋人の私なんていらない。