第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
泣きながら怒ってくれていたアオイちゃんの呼吸が落ち着いたのを見計らい、二人を離すと近くの縁側に腰掛けた。
「昼餉の支度大丈夫?」
「うん。準備はしてきたから…。音柱様の件、さっきしのぶ様から聞いた。ほの花ちゃん大丈夫?」
「…師範も…心配そうだったよ。」
「…ありがとう。流石に此処にきた直後はツラくてしのぶさんの胸を借りて号泣しちゃったけど…今はだいぶ落ち着いた。」
先ほど伊之助と体を動かしたことで今のところ大丈夫そうだ。それよりもカナヲちゃんとアオイちゃんの方がよっぽどツラそうに下を向いて元気がない。
私のせいで気に病ませてしまって申し訳ないことをしてしまった。
「…音柱様…、絶対怒るよ…。化けて出ると思う。」
「私もそう思う…。その時の魂だけ抜けてほの花ちゃんの夢に出てきそう…。」
いやいや、どんな人なの、宇髄さんは。
あまりに突拍子もない想像に思わず笑ってしまった。
確かに万が一記憶のある状態でそれがバレたら怒られるとは思うけど…、流石にその想像はしていなかった。
「…あはは!宇髄さんの生き霊?私、お化け怖いんだからやめてよ〜…!あ、でも、宇髄さんだって思ってたら怖くないかも。」
お化けは怖いし、怪奇現象なんて絶対一人で耐えられる自信はないけど、記憶がある頃の宇髄さんが夢に会いにきてくれるのは嬉しい。
どんな話をしよう?
花火大会楽しかったね?とか
浴衣すごくかっこよかったよ!とか
もう二度と現実でそんなことはできないからこそ、夢でも会えるなら嬉しいと感じてしまうのは仕方ないと思う。
「もう〜!何で…っ、何で笑ってるの…!笑わなくて、いいよぉ〜!!馬鹿馬鹿〜!」
「…っ、ひっ、く…、っ」
カナヲちゃんまで泣き始めてしまったことで、私は両端にいる二人の肩を抱いて引き寄せた。
ギュゥっ!と言う効果音がつきそうなほど。
自分のために涙を流してくれる人がいると言うことはとても尊い。
「二人が…泣いてくれるからわたしは笑っておく。それにね…、宇髄さんはわたしの笑った顔が好きだったんだって。煉獄さんが教えてくれた。だから…もう泣いたから笑っておくね。」
その場に聞こえるのはアオイちゃんとカナヲちゃんの鼻を啜る音だけ。
私は彼女達を抱きしめて空を眺めていた。
大切な友達に感謝をしながら