第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
──君の笑顔が何より好きだと言っていた
煉獄さんもそう言っていた。
宇髄さんは私の笑顔が好きだって言っていたと
伊之助に「笑え!」と言われてそれを思い出した。
記憶を消してしまった宇髄さんにはもう三人の奥様達がいるけど、心の中に残っている消す前の宇髄さんに向かって私はこれからも笑い続けよう。
だって彼は私が笑ってるのを好きだと言ってくれていたのだから
辛気臭い顔をしたことで、部屋の中はどんよりさせてしまった。私は「勝負しろ!」と言った伊之助の手を掴むとそのまま庭に向かった。
こう言う時は体を動かすのが一番だ。
いつ任務が来ても良いようにしっかり体を動かして備えなければならない。
「伊之助、ありがとう。私、ちゃんと笑うから。」
「おお!笑え!お前は笑ってた方がいい!!」
「さて、ド派手に伊之助を負かそうかな〜。ふふふ。」
わざと宇髄さんの口癖を真似てみたのは私の中の恋心を追い出すため。
気にしない。
私は自分が信じた道を突き進む。それだけだ。
「はぁあ?!お前なんかに負けるわけねぇだろ?!俺が勝ーーーつ!!」
「負けないよ〜?これでも音柱様の継子だからね。伊之助に負けたら怒られちゃうよ。」
舞扇を構えると臨戦態勢の伊之助を迎え撃つ。
猪突猛進に突き進んでくる彼の真っ直ぐで一生懸命さが気持ちいい。
素直に彼に甘えて守られていれば今頃違った未来があっただろう。
でも、そんな未来は私っぽくない。
いつも守られてばかりの私
守られて守られて守られて生きてきた。
少しくらい彼の背中を守るくらいのことはしたい。きっと恋人としてだったら叶わなかった。
今は違う。
私は継子として師匠の背後を守ることができる。
猛烈な速度で突っ込んでくる伊之助を避けながら、舞扇を振り下ろすが彼もなかなかすばしっこい。
それをかわすと塀に足場にして再び此方に突っ込んできた。
少し前までなら私の方がだいぶ強かったと思う。でも、いまは違う。
どんどん強くなっている三人に目尻を下げた。
私は彼らみたいにはできない。呼吸の使い手ではないから。
私は私の戦い方をする。
私にしかできない戦い方で
それが私の宿命だから