第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「そんな…、ほの花はそれでいいのか?」
「うん。これが最善なの。だからお願い。三人にも協力してほしい。お願いします。」
そう言って頭を下げたほの花に何も返せずに再び固まる羽目になった。
善逸はシクシクと泣き続けていて、伊之助はほの花の背後に茫然と立ち尽くしている。
ほの花の悲しみが伝わってくるからこれ以上何も言えなかった。きっと決断するまで物凄く考えたんだ。考えて考えて考えた末の答えなんだ。
仕方ないことなのだろうか…?
ほの花一人がつらい思いをして、それが正しいことなのだろうか。
もし、此処に記憶がある宇髄さんがいたら物凄く怒っていたと思う。物凄く怒ってほの花を離さないと思う。
会ったことのない俺ですらそう感じているのだ。ほの花だって其処は弁えているだろうけど…。
誰も何も話さない時間がただ過ぎていく中、ほの花の背後にいた伊之助が口を開いた。
「よくわかんねーけど、要するに音のおっさんとのことをヒミツにしやぁいいんだろ!?そうすればお前はまた笑うのか?笑え!変な顔すんな!そんな顔、似合わねぇ!!そんでもって俺と勝負しろ!!」
「…い、伊之助…!勝負って…、何を言ってるんだよ!こんな時に…!」
「傷心のほの花によくそんなこと言えるよなぁああ?!これだから単細胞は!!!ごめんねごめんねぇ?ほの花〜!泣かないでおくれよぉ〜?」
伊之助には女心を理解するのは難しいだろうし、微妙な心の変化を察することなんてできないだろう。
でも、トンチンカンとも思われたその発言を聞いてほの花がポカンとしてしまっていたが、数秒後いつもみたいにくしゃっと顔を綻ばせた。
その顔があまりにいつもと変わらなくて、あまりに綺麗だったから三人が三人とも見惚れてしまった。
「あはは…!ありがとう、伊之助…。そうだね、勝負でもしよっか。」
いつの間にか怪我の処置は終わっていて、立ち上がったほの花は伊之助を促して、一緒に庭に向かった。
その顔はいつものほの花だった。
ほんの少し悲しみの匂いを残していたけど、残りはいつもの花の匂いがした。