第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「ごめんね…?驚かせちゃった…よね?ごめんなさい…。」
私の発言に固まったまま動かなくなってしまった三人に見兼ねて私から言葉をかける。
驚くのは無理ない。
いくら恋人だったとは言え、柱相手に大それたことをしたのは否めない。
「…昨日、宇髄さんとのことを終わらせる為に彼に…ううん。家にいる人全員に私と恋仲になった後の記憶を消したの。だからみんなには音柱が私と恋仲だったということを他言しないでほしい。」
幸いなことに彼らにはまだほんの少ししか宇髄さんのことを話していない。
だからきっとすぐに理解してくれると思っていたのに、鼻を啜る音が聴こえたかと思うと隣で立っていた善逸がしくしくと涙を流していた。
その姿を見ても、炭治郎も伊之助も…下を向いて何も言わずに動かなかった。
「…ぜ、善逸…?どうしたの…?」
「な、何でだよぉ…!お、俺がほの花のこと口説いたりしたから…!怒られちゃったのぉ?!だからなの?!ごめんよぉおっ!俺、音柱に謝りに行くからさぁ!!」
口説いた…?
いつの話だろうか。もう彼は女性を見ると賛辞を言わないといけない病なのだからそんな風に感じたこともなかった。
だけど、私が突然変なことを言ったせいで彼なりに反省するところがあったようでわんわん泣いている彼を見たら溜まっていた涙が引っ込んだ。
「…っ、あは、あはは…!ち、ちがうよ。善逸のせいじゃない。私が…自ら終わらせたの。」
「ほの花、理由は…?聞かせてもらえないか?」
つらそうな顔をして下を向いていた炭治郎が漸く顔を上げた。
その瞳は悲しみに溢れていて潤んでしまってるので、精一杯の笑顔を向ける。
「煉獄さんが亡くなってね…現実味を帯びたの。彼が私のために命を懸けてしまうことが。ただでさえ鬼殺隊は隊士不足だし、柱がこれ以上減ったら鬼殺隊の存続にも影響を与えかねない。だから…終わらせた。別れましょうって言うだけじゃ宇髄さんはきっと納得してくれないから…。私のことを忘れてもらった。それが最善だと思ったから。」
言葉にすると何と簡素なことか。
でも、其処にはとてつもない想いが詰まっていてこんなにも胸が苦しい。
でも、これが最善だと私が一番信じないといけない。これ以上の策はなかった。
そう信じなければつらくて前を向けないから。