第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
しのぶさんの胸で一頻り泣いたあと、しのぶさんが化粧を直してくれた。鏡に映る私は目が真っ赤で引くほど不細工な顔をしていたのでやはり宇髄さんに見られなくて良かったと心底思った。
身だしなみが整うと、私は炭治郎達のところに向かう。
「炭治郎君達には…」
「彼らには私から言います。カナヲちゃん達には…しのぶさんから伝えてもらえますか…?」
「良いんですか?」
本当はカナヲちゃんとアオイちゃんには直接伝えたい。
でも…、もう泣かないと決めたのに彼女達の顔を見ればまた泣きたくなってしまうから。
熱りが冷めた頃に笑って話せるまで自分からこの話はできない。
宇髄さんのこともそれなりに話してきた大切な友達だからこそ…言えない。
あんなに応援してくれたのに…あわせる顔がない。
「…噂とかで聞く前に伝えたいとは思ってるので、伝えてもらえませんか…?」
「…わかりました。」
「午後からは産屋敷様のところにも行かないといけないし!お願いします。では、炭治郎達のところに行ってきます!」
私は逃げるようにその場を後にした。
炭治郎達の看病などやることも大してないと言うのに
「…大丈夫…大丈夫…。頑張れ」
声に出して自分を叱咤激励すれば少しは前向きな気持ちになれたけど、昨日の今日で、先ほど号泣したばかりでまだ上手く笑えない。
それでも前を向いて進むしかないのだ。
私は炭治郎達の病室に向かうと入る前に笑顔の練習をして、「おはよー!」と入って行った。
すると、其処にはまだ少し元気がなさそうな炭治郎と隣に付き添い饅頭を食べている善逸、床で腕立て伏せをしている伊之助が一斉に此方を見た。
「「「ほの花!!」」」
振り向いた彼らの顔は笑顔でホッとした。
泣いていたら私も相乗効果で泣いてしまいそうだったから。
「おい、ほの花!何で昨日来なかったんだよ!手合わせしたかったのによ!」
伊之助が急に突進して来たので、サラッと避けて手を合わせて謝った。
「ごめんごめん!昨日は…野暮用があって!三人とも体調はどう…?って伊之助は大丈夫そうだね。」
「あったりめぇだろ!!ピンピンしてる!!」
避けた私の後ろに張り付いて離れない伊之助をそのままに善逸が譲ってくれた椅子に腰掛けた。