第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「…はぁ?!どういうことだよ、胡蝶!」
「どうもこうもありません。ほの花さんからの協力依頼が来ました。不死川さんも協力して下さいね。」
「そ、それで…本当にほの花はいいのかよ…?アイツだけが何で傷つく必要がある?他に方法はないのかァ?!」
ほの花さんから宇髄さんの記憶を消すといわれてから、私はすぐに柱一人ひとりにそれを伝えた。
皆一様にほの花さんの心配をしていた。
それは彼、風柱 不死川実弥さんも一緒
しかし、宇髄さんの危うさは皆も感じていたことで炎柱である煉獄さんの死によってそれは顕著になった。これ以上、柱が欠けることはまずいと誰もが思っていたが、聞く耳を持たなかった彼を説得することは不可能。
音柱として常に冷静に判断して鬼を殲滅してきた頼り甲斐のある柱であることは間違いないけど、ひとたびほの花さんが絡めば間違いなく自分を犠牲にして彼女を守る。
彼がほの花さんとの任務を頑なに断り続けていたのもこれ以上見過ごせないし、ただでさえ隊士が足りない今、柱一人の一存で継子を任務に行かせないなんてことは目に余る行為だ。
そんな中、誰よりも冷静にそれを見て、客観的に決断を下してくれたのがほの花さん本人だった。
彼女のことを想えば、誰もが二人を引き離そうとは思っていなかった。
それなのにほの花さんが捨て身の戦法に打って出たことで状況は一変した。
「…ほの花さんが望んだことです。宇髄さんのためにも、鬼殺隊のためにもとのことです。」
「っ、ンなこたァ、宇髄は望んでねェだろうがァ!?アイツが知ったら…」
「だから私たちが協力するんです。ほの花さんと宇髄さんは…"恋人同士"じゃなかった。"師匠と継子"だったと肝に銘じてください。そうしなければ…ほの花さんがもっと傷つくことになりますよ。」
不死川さんは不服そうな顔をして此方を見ているが、私にそんな目をされても仕方ないことだ。
そして彼もまた協力してくれるのは目に見えている。不死川さんにとってほの花さんは妹みたいな存在。
彼女が傷つくことの方が本意じゃない。
深いため息を吐くと不死川さんは「馬鹿野郎…」と呟き、出ていった。その後ろ姿は悲しみが溢れていた。