第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
ひっく、ひっく…
どれだけ泣いていたのだろうか。
涙だけでなく鼻水も出るわ出るわ、今の姿を万が一宇髄さんに見られていたら百万年の恋も冷めるだろう。
記憶を消しておいてよかったかもしれない。
自分の嗚咽だけが聞こえるのが恥ずかしくなってきたのでゆっくりとしのぶさんの体から離れると急ぎ手拭いで顔を覆った。
「ごめ、んなさい…。取り乱しました…!」
すぐに頭を下げて謝るが、手を握られて笑みを返してくれる彼女に心が落ち着いていくのがわかる。
ひとりじゃない。
そうだ、同じ秘密を共有してくれている人がいる。
その人達のためにも私は弱音を吐いている場合じゃない。
「…いいんですよ。いつもは宇髄さんの役目だったんでしょうけど…暫くは私が代わります。いつでも泣きに来てくださいね。」
「あ、あはは…いえ、泣くのは間違ってました!自分でしたことなのに泣くなんて失礼極まりないです。」
「泣かなければ前に進めません。一度泣いてよかったんです。つらかったですね。お昼ごはん一緒に食べましょう!また食欲無くなるといけませんから。」
耳が痛い
確かに私は精神的に脆いところがある。まだまだ鍛錬が足らないんだ。こんなことで泣き言を言っていたら上弦の鬼なんて倒せない。
食欲無くなってる場合じゃないのだ。
今回は私が始めたこと
何が何でも彼に悟られてはならない。
「ありがとうございます。大丈夫です…!しのぶさんがいてくれるだけで百人力です。」
「柱には全員にこのことを伝えてあります。皆……貴女のことを心配していましたよ。」
良かった…。
柱の皆様も協力してくれると分かればかなりホッとしている。でも、それと同時に気も引き締まる。こんなに協力してもらっておいて墓穴を掘るようなことだけはできない。
薬の効果は絶対だ。
でも、忘れ薬を飲ませたことを悟られてはいけない。それだけは死守しなければならない。
「助かりました。私は大丈夫です。もう泣き言は言いません…!皆様にお会いした際には私からも御礼を伝えさせて頂きます!」
「…お館様には…」
「今日の午後…伝えます。」
産屋敷様も分かってくれる。
これが最善の方法なんだ。
宇髄さんが全力で戦うためには私は恋人ではいけない。
それだけは間違いないのだから。