第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「い、良い人なんかじゃないですよ…!同期です!」
炭治郎たちのことを誤解されるとそれこそこの家から出にくくなる。
何とか誤解を解かなければと否定してみるが、須磨さんは話は終わらない。
「そうなんですかぁ?何だ〜、つまんないの。でも、天元様ぁ〜?ほの花さんだって年頃なんですからあんまり過保護なのは良くないですぅー!恋人だって作れませんよ!ねぇ?ほの花さん!」
「はぁ?!コイツにはまだ早いわ!!百万年くらい早いわ!!」
百万年…
こちらはあなた以外と添い遂げる気はないので全く構わないですが、普通の女子にそんなこと言ったら怒られますよ。宇髄さん。
「天元様のせいでほの花さんがお嫁に行けなかったらどうするんですかぁ!!責任取れるんですかぁ?かわいそうですぅ!」
「おーおー派手に責任取ってやらぁ!おい、ほの花!」
「ご馳走様でした!!さ、準備しないと…!」
自分の食器を持って立ち上がると早々にその会話を離脱した。これ以上、此処にいても実りのある話はない。
忘れ薬を使った意味をちゃんと考えなければ。
「あ?おい、待て!まだ話してる最中だろ?!」
「でも、急がないと約束の時間に遅れてしまいます。師匠、奥様との痴話喧嘩に継子を巻き込まないでくださいよ〜!」
「…痴話喧嘩…?……あー…」
私の言葉に考え込むように動きが止まった宇髄さんをそのままに私は足早に台所に向かった。
後ろから追いかけてくる様子はないのでホッとした。意外にも宇髄さんがあまりいつもと変わらないことに肩透かしを喰らった。
でも、恋仲だったことは覚えていない。
いつ私のことを好きになってくれたのかは知らないけど、今度はそれすら抱かせない。
私はあなたをもう愛せないのだから
あなたと私は師匠と継子だ。
台所で食器を洗うと自分の部屋に戻り、薬箱を背負って居間に向かうと襖を開けずに「行って参ります〜!」と声をかけて、逃げるように宇髄邸を出てきた。
「行ってらっしゃい〜」と言う奥様達の声は聞こえたけど、そこに宇髄さんの声は聞こえなかった。
継子が反論したから怒ったのだろうか
お叱りは帰ってから聞こう。
それでもさっきの会話の続きはどう考えても実りはない。