第32章 世界で一番大切な"ただの継子"
「ほの花さん、今日何処かにお出かけされますか?」
起きてきた宇髄さんが私の隣に着席すると、すぐに雛鶴さんがそう声をかけてきた。
記憶を消しても座る位置は同じ。
体が覚えているのか同じ位置に座るのは仕方ないのだろう。
宇髄さんも何の迷いもなく私の隣に座った。
此処に来たばかりの時から此処に座っているのだから仕方ないか。
「はい!蝶屋敷に行きます!同期が怪我をしているので看病を任されてるんです。その後、産屋敷様のところへ調合に行きます。」
「あら…そうでしたか。では、お忙しいですね…。」
「おつかいですか?帰りでよければ行ってきますよ。」
「え…で、でも…」
すると、正宗達が「我々が行きましょうか。」と名乗り出てくれて雛鶴さんはその表情を緩めた。
「…良いんですか?」
「ええ。お任せください。ついでに重いものも買ってきますのであとで残り少ないものを教えてください。」
そんな二人のやり取りを宇髄さんは特に気にもせずに、朝餉を食べ進めている。
ちゃんと…薬は聞いているのだろうか。
別に雛鶴さんが不義をしているわけではないけど、他の男性と話してても特に何も思わないのかな…?
気になってしまい、チラッと見ていると視線に気づいたのか此方を見た宇髄さんと目が合ってしまった。
「ほの花、あんまり帰り遅くなるようなら鴉を寄越せよ。迎えに行ってやる。」
「……え?」
ちょっと待って…?
これではあまり変わらないのではないか…?本当に薬効いてる?
でも、朝からやたらと口付けたりしてくる宇髄さんはいない。多分効いてる筈だ。
「だ、大丈夫です。師匠、子どもじゃないんですから!心配しないでくださいよ。」
「餓鬼じゃねぇから心配なんだっつーの。いいから連絡よこせ。わかったな。」
分からない…
多分効いてる筈だけど
あまりに普段と変わらないように見える彼に私は首を傾げた
でも、ニコニコしながら此方を見ていた須磨さんの発言でちゃんと薬が効いているのだと確信した。
「ああー!同期って言ってますけど〜、ほの花さんの良い人ですかぁ?だから天元様に迎えにきて欲しくないんじゃないですかぁ?」
効いてる
私と宇髄さんはやはり確実に関係性が戻っている。それを聞いた瞬間、ホッと胸を撫で下ろした。