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陽だまりの先へ【鬼滅の刃/音夢💎】R指定有

第32章 世界で一番大切な"ただの継子"






花火大会の数日前、私は秘密裏に珠世さんに会った。
受け取るのはもちろん忘れ薬


たまたま宇髄さんが遠方の任務でいなかったと言うのも好都合だったので、茶々丸が迎えに来た時はホッとした。


茶々丸の後を追いかけると近くの竹林の中に珠世さんと愈史郎くんがいた。手身近にすまさないと彼らに危害が及ぶと申し訳ない。
私は小走りでそこまで行くと挨拶もそこそこに本題に入る。


「…できましたか?」


「ええ。これをお茶に煎じて飲ませて下さい。九ヶ月ともなると二杯ほど飲まないといけませんが…可能ですか?」


「それは…何とかします。ありがとうございます。」


もらった薬包を懐に仕舞い込むと深々と頭を下げた。鬼の彼女に助けられると言うのは何とも不思議な感覚だが、炭治郎の言う通り珠世さんから邪気は感じられない。

母のような優しい雰囲気さえ感じる。


すると徐に彼女が二つ折りにした紙を差し出してきた。


「調合記録です。」


「あ、ありがとうございます。」


目の前でそれを開ければ、私の考えは当たりだったようで薬事書に朱色に書かれていた薬材達が羅列されていた。
やはりあれは忘れ薬の調合だったのだ。
母は私の身を守るためその薬を飲ませていることを悟られないために敢えて其処に書かなかったのだろう。


そこまで分かると漸く腑に落ちて大きく頷いた。


「…ほの花さん。その忘れ薬は飲んだ後、一度眠りにつき再び起きた時に効果を発揮します。一度飲ませれば思い出すことはほぼ不可能です。それでも…使いますか?」


「…まだ分かりません。でも…よく考えてから使います。」


「忘れ去られることは忘れるより寂しいことですよ。」


忘れ去られることがいくら寂しいことでももしそれを望んで飲ませるのであれば、そんなことは受け入れる他ない。
珠世さんの言葉を分かっていたつもりでも私はその洗礼を数日後にまさか味わうことになろうとは思ってもいなかった。


「珠世さん、ありがとうございました。また分からないことがあれば教えてください。たとえ鬼でも貴女は信頼できそうです。」


「はい。何なりと。」



そう言って笑う珠世さんに採血はしなくていいのか聞けば首を振ったので、その日はそこで彼女たちと別れて家路についた。

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