第31章 忍び寄る終焉※
「天元…、おねだり、してもいい?」
「おねだり?どうした。」
ほの花が俺に何かをねだることなんて殆どない。今日だって買ってやると言ったのに婚約指輪も断ってきやがったし、何か買ってやろうにも何もいらないというのだから厄介だ。
そんなほの花の願ってもいないおねだりなら何でも聞きたいと思ってしまうのだが、それが思ってもいないことで俺は暫く固まってしまった。
「痕、見えないところにたくさんつけて?」
「…………は?!」
いやいやいや、付けないでっていうなら分かるが、今日のほの花は付けてといった。間違いなく言った。
しかも、たくさん付けてって言った。
思わずほの花を凝視してしまったが、キョトンとした顔でこちらを見てヘラヘラ笑うので暫く考え込んでしまった。
何の意図があってそんなこと言うのだ?
まさか俺のそばを離れようだなんて思っているのでは?
良からぬ考えが頭を掠める。
「…何で?俺、お前と別れたりしねぇよ。此処から出て行くつもりなわけ?だから付けろって言ってんの?思い出に。」
「え、え、え…?!ちょ、ちょっと待ってよ…?何でそんなこと言うの…?出て行ったりしないよ!ただ…雛鶴さん達には怒られるかもしれないけど…私は付けられるの好きだって前に言ったじゃん…?天元に愛されてるって感じられるから…だからだよ?」
悲しそうな顔で必死にそう言うほの花は困惑していて嘘をついているようには見えないけど、疑ってしまうのも仕方ないと思う。
様子がおかしいと思っていたところにこれだ。
怪しいと思うのも仕方ない筈だ。
「…本当にそれだけか?」
「うん!怪しいと思ってるなら監禁でも何でもして下さい〜。ずっと此処にいるよ?」
あまりにもあっけらかんと言うので他意はないと信じることにした。言葉を返す代わりにほの花の首筋に口付けると思いっきり吸ってやる。
「…んっ…!」
見えないところと言われたけど、一箇所くらいは見えるところにしても良いだろ?
それくらいの意地悪させてくれよ。
お前のおねだりを聞いてやるんだから。
そうして明日腕の中にいなければ、探し出して一生監禁してやる。
そんな危ない考えが頭を埋め尽くすが、今は目の前のほの花を愛でることに全集中しよう。
いなくならないように愛を注ぎ込もう。