第31章 忍び寄る終焉※
──買っておけばよかったな。ごめんな。俺の落ち度だ。
宇髄さんが私の薬指をツンと差して悲しそうに言うから胸に身を委ねながら首を振って否定をする。
指輪なんていらない。
欲しくないんだ。
私にはそんな物は必要ない。
これを選んだのはたまたまそれが目に入ったからだ。特に意図はない。
指輪を買って欲しかったから敢えて選んだと思われたのだろうか?
もしそうなら失礼なことをしてしまった。
「天元、別に指輪が欲しかったからこれを選んだんじゃないよ?目に入ったからそれにしたの!」
「…それだけか?」
「え?うん。当たり前だよ。ごめんね?なんか物乞いしたみたいに感じたならこっちが謝るよ!ごめんなさい。」
「お前は謝んな。つーか物乞いしろよな!もっと!」
少しは納得してくれたようだったけど、今度はぷりぷりと怒り出した宇髄さんに苦笑いを向ける。
「ふふ。じゃあ物乞いする〜!」
「は?お、おお。なんでも言え。どうした?」
「それ食べたい!お好み焼きってやつ!もう我慢できない〜!美味しそうな匂いがぷんぷんするんだもん!」
宇髄さんが持っていたそれを指差せば、心底呆れたような顔をされたけど、この食欲をそそる匂いに勝てる人がいたなら見てみたいほどだ。
「仕方ねぇな…お前の物乞いなんて大したことねぇな。まぁ、腹は減ったし食うか。」
不満そうな顔を向けてくるけど、私の希望通りにそれを広げてくれると私たちの間にその匂いが充満する。
箸を渡してくれたので、受け取ると目の前で湯気を立てているそれを一口分取り、口に放り込んだ。
初めて食べるそれはソースが美味しくてふわふわ。ふんわりと香る鰹節が更に旨味を引き出してくれている。
あまりに美味しかったのでもう一口分取り分けると宇髄さんの口元に運ぶ。
「はい、あーん。」
「お、それはいいな。遠慮なく。」
無一郎くんが遊びに来た時以来、やたらと「あーん」をねだるようになったけど、みんなの前では恥ずかしいし、体裁も悪いのでしたくなかった。
でも、今日は特別。
誰も見ていない木の上だ。それならば彼の日頃の願いを叶えることもできると言うものだ。
二人だけの甘い時間は花火と共に夜空に溶けていく。