第31章 忍び寄る終焉※
目が覚めるとほの花が腕の中にいなかった。
はっとして身体を起こすが、枕元に可愛らしい字が書かれた紙が置かれていて顔を緩ませる。
(…何だよ、驚かせやがって…)
──天元へ
おはよう!雛鶴さん達と身支度をしてきます。
眠ってたので起こさないようにしました。
ほの花──
ほの花には目が覚めるまで腕中にいろと言っていたこともあって、ここ最近は勝手にいなくなることはなかったが、そう言うことならば仕方ない。
煉獄の死から三日経った。
三日経ったことでそれがやはり事実なのだと思わされたが、それと同時に腹を括ることもできた。
命の順序は変わらない。
それに付け足されただけだ。ほの花という存在が。
毎日隣にいても飽きることもない彼女の存在は自分の中で計り知れないほど大きなものとなっている事実は消すことはできない。
ならば…受け入れる。
俺はほの花を命に変えても守ってみせる。
煉獄の死は俺にそう新たに決意させてくれた。生温いことを言うならば二人で生き残りたいが、今後の戦いを考えると難しいかもしれない。
それならば愛おしい女を俺の手で守りたい。それだけだ。
身支度をするということは浴衣の着付けでもしているのだろう。
買ってやった浴衣を着てくれるのは凄く嬉しいし、できることならば来年も再来年もそれを着て一緒に花火を見たい。
布団から立ち上がると俺も箪笥の中に入れていた反物を取り出した。
それはほの花が俺に…と選んでくれた浴衣だ。好きな女が自分のために選んでくれたたった一つの贈り物。
恋人から贈り物をされて嬉しくないなんて言う奴がいればそんな男は派手に糞野郎だ。
俺なんて嬉しくてたまらなかった。
時折、浴衣を出しては眺めていたと言うのに。
布団を片付けると、浴衣を広げてみる。
ほの花が選んでくれた柄は品があって俺ならば選ばなさそうな柄と色合いだが、"敢えてそれを選んだ"と言うだけあって、合わせてみたら自分によく合っていた。
「さ、俺も着替えるか。」
今日は待ちに待った花火大会。
最高に美しい浴衣美人を迎えるために俺も準備しないとバチが当たるというものだ。
俺は夜着を脱ぎ捨てると手にしていた浴衣に袖を通した。