第31章 忍び寄る終焉※
「てんげん…、は…いなくならないで。」
「やっぱ、聞いたのか…、煉獄のこと。」
「っ、う、ん…。」
宇髄さんの胸に顔を埋めると思いっきり空気を吸い込んで彼の匂いを身体中に染み渡らせる。
もう全部を包んでほしい。
そんな思いで抱きつきながらこぼれ落ちた言葉は私のたった一つの願い。
それを言えば、全ての経緯を悟ったようで宇髄さんは煉獄さんのことを口にした。
彼だってツラいのに思い出すようなことをしてしまったのかもしれない。これ以上は話さない方がいいのかも…と思い、必死に話題を探すが、先に言葉を発したのは宇髄さんだった。
「…煉獄でさえ、上弦の鬼の前では…敵わなかったということだ。でも……俺は必ずほの花のところに戻ってくるから。変わらず…そばにいてくれるか?」
「っあ、当たり前だよ…!そばに、いるよ!絶対に…!生きて帰ってきて…待ってるから。」
「それなら良い。お前が居てくれねぇと意味ねぇからよ。」
トクントクン──
宇髄さんの心臓の音を聴きながら彼の温もりと匂いを堪能していると煉獄さんとのことを話そうと口を開く。
「あのね、煉獄さん…、任務に向かう前にね、此処に来てくれたんだよ。」
「煉獄が…?」
意外だったのか体を離して私の顔を見つめた宇髄さんは驚いた顔をしている。
「…うん。傷薬を使ってみたいからって…っ、ぶ、物々交換したい、って甘味、持ってきて、くれた…!天元が…、私の好きなもの、教えてくれたん、でしょ?」
「…ああ、俺が教えた。そうか…此処に来たのか…。アイツらしいな。前から欲しいって言ってたからもらってやろうか?って話したこともあるんだけどよ。」
そっか…
宇髄さんにも薬の話してくれていたんだ…。
再び彼が抱きしめてくれたので胸に顔を埋めたまま話を続ける。
「そうなんだね…。私、その日の戦いで負傷した人たちの救護で蝶屋敷に行ってたんだけど…その中に炭治郎達がいたの。」
「そうか…。」
「それでね、今日煉獄さんのお家に行ったの。炭治郎が煉獄さんのご家族に、最期の言葉を伝えて欲しいって言われたみたいで…」
実際には私はお父様にはお会いしていないけど、宇髄さんは口を挟まずじっと聞いてくれているのでそのまま言葉を続けた。