第31章 忍び寄る終焉※
まだ眠りについてすぐのこと。
ほの花がモゾモゾと動き出したので、お早い起床だともう一度眠らせようと思ったのに、胸に顔を埋めたきり、声も発さずに泣き始めた彼女に目を見開く。
涙の理由なんて考えるまでもなくて、縋り付くようにしくしくと泣いているほの花の頭を撫でてやる。
ほの花は煉獄のことを知らないわけではない。一緒に飲んだこともあるし、顔を合わせたことも何度となくある。
普通の一般隊士よりも俺の継子ということで炎柱と関わり合いはかなり多かった。
一緒に任務に出向いたことはなかったが、面識のある"柱"が"上弦の鬼"に負けたという事実がほの花を恐怖の底に陥れたのは間違いない。
この俺もまた柱。
上弦と対峙して無事であるなんてほぼ不可能だろう。死なずとも手負いになることは間違いない。それは柱ならば誰しも思っていることだ。
そして、ほの花とてそれが分からないほど実力を図れないわけではないはずだ。
だからこそこうやって俺が帰ってきた事実にこれほどまでに涙を流してくれているのだろう。
口ではコイツを残して絶対に死なねぇと言うし、死ぬつもりはさらさらないが、煉獄の死が間違いなく俺たちに現実を突きつけてきた。
共に添い遂げる。
そう約束した。
しかし、どうなるかわからない身だからこそすぐにほの花を嫁に迎えなかった。
こうなった今、ほの花を早いところ娶った方がいいかもしれないと言う気にもなる。
そうすればほの花は誰のものにもならず、死しても尚、永遠に俺のものだという保険ができるという危ない考えが頭を覆い尽くすのだ。
我ながらとんでもない悪党な考え方だと思う。
普通なら恋人に言う台詞ではないだろう。
本来ならば"俺が死んだら他の男と幸せになれ"と言うのが正しいのかもしれない。
だが、俺はそんなことはまっぴらごめんだ。
ほの花を他の男にやるくらいならば、その男を八つ裂きにしてやる。
ほの花の隣には俺だけいればいい。
「…ほの花、俺は此処にいる。大丈夫だ。」
「…っ、う、ん」
「だから、泣くな…」
ほの花を俺ほど愛する男じゃないと、絶対に隣にいることは認めない。