第31章 忍び寄る終焉※
あ…宇髄さんがいる。
目が覚める間際に私はよくそんなことを思うことがある。覚醒していない意識の中でも彼がそばにいることがわかるのだ。
匂い、温もり、そして包み込んでくれる大きな体。
その瞬間、おかえりなさい…と同時に無事に帰ってきてくれてよかったといつも思うのだ。
今回もそう。
体には彼の体温を感じるが、まだ意識は微睡にいるのだ。
それでも彼がいると言うことだけでも十分に価値のある朝になる。
薄らと目を開けると私は横を向いていて、腕の下にある手が天井を向いていた。
ボーッとした瞳でそれを見つめているが、近くに置いてあった自分の手を其処に目掛けて移動させると大きなその手を握りしめてみた。
「…なーんだよ、ほの花。もう起きたのか。」
「え、っ、あ…ご、ごめんね、起こしちゃった?」
「モゾモゾするから目が覚めたんだわ。起こしたくねぇんならじっとしてろよな、ふぁああ…」
後頭部で彼の欠伸を受け入れるとそのまま向きを変えて宇髄さんと向き合ってみる。
くるくるとゆっくり動かして、彼の顔が見えると途端に鼻の奥がツンとしてしまった。
帰ってきてくれた…
ちゃんと怪我もなく、帰ってきてくれた。
それが本当に嬉しくて。
正直、鋼鐡塚さんとの鬼ごっこをやっていた時は煉獄さんのことは忘れられていたと思う。
千寿郎くんのところにいた時ぶりに彼のことを思い出すと宇髄さんが此処にいることがとても尊いことなのだと思い知らされた。
不思議そうにしている宇髄さんをそのままに私は彼の胸に顔を埋める。そうすれば彼の鼓動に安心してね溢れ出しそうな涙も自然に収まっていくと信じて疑わなかったから。
しかし、今日は違った。
宇髄さんの匂いを嗅いでしまうと途端に感じたのは彼が生きていてよかったと言う気持ちだ。
胸に顔を埋めたまま、込み上げてくるものを止めることができず、私は彼の胸の中で涙を溢れさせてしまった。
「っ、…ひ、っく…」
「…ほの花……」
それでも宇髄さんは私の名前を一度呼んだきり、何も言わずにそのまま抱きしめていてくれた。私が泣き止むまでずっと体を抱きしめ続けて頭を撫でてくれていた。