第31章 忍び寄る終焉※
全く…コイツは本当に隙だらけの女だな、おい。
自分の腕の中にいるほの花は気持ちよさそうな顔をして眠りこけている。
いくら疲れていたとはいえ、歩きながら寝る馬鹿が何処にいるのだ。
しかも、見ず知らずではないとはいえ俺じゃない男と歩いている時に寝るか?普通。
薬箱をほの花の部屋の定位置に置いてやるとすぐに部屋に戻り、布団に横たえてやった。
それにしても疲労困憊とはよほど救護者が多かったのだろう。
致し方ないとはいえ、それならば帰ってくるよりも蝶屋敷で眠ってから帰ってこればよかったと言うのに…。
鋼鐡塚の手を借りて(いや、正しくは背中だが…)帰ってくる方がこちとら色々心配だ。
いくらアイツがほの花に手を出すつもりはないと俺に公言していたとしても自分の女が他の男と二人きりの状況は嬉しいものではない。
いつ見てもほの花の寝顔はクソ可愛いし、それを見られるのは俺の特権でもあるのだから、不可抗力とはいえ見られるのは癪だ。
ほの花の隣に入り込むと彼女の頭の下に腕を入れる。そうすると腕に心地いい重さがかかり、それがまたいつもの感覚で眠りを誘発させる。
いつもの布団
いつもの体勢
いつものほの花
それだけあれば十分すぎるほど安眠できる。長期の任務など慣れているが、それでもほの花の隣に寝転がると疲労感から瞼が重くなって行くのを止められない。
その時、初めて自分が其処まで疲れていたのだと思い知るのだ。
しかも今回は途中で聞いた煉獄の訃報。
いろいろ考えてしまい、精神的にも疲れたのもある。
死者は蘇ったりしないし、結局のところアイツの分までしっかりと任務を遂行して鬼の殲滅に心血を注ぐくらいしか弔いの方法はない。
だけど、今は…今だけは
愛おしい女を腕に抱き、愉悦の微睡を堪能したい。ほの花の隣にいる時だけは音柱じゃない。
一人の男 宇髄天元としてそばにいたいのだ。
何も考えずにほの花だけを愛することができる時間は尊い。
できることならばずっとこうしていたいのに…
愛おしい花の香りに包まれながら俺は幸福の微睡へと意識を手放した。