第31章 忍び寄る終焉※
しかし、それから数分とせずに虹丸が帰ってきたのには驚いた。
「ほの花イターーッ!近クニイターーッ!ソロソロ此処ニ着クーー!」
「ああ、そうか。ありがとな。」
何だ、やはり任務か救護依頼でも入っていたのだろう。漸くホッとすると自分の隊服を脱ぎ捨てる。どこかで何かあったのかもしれないと思い、着替えず待っていたがその必要はなさそうだ。
どうせなら外で出迎えてやろうと思い、庭から玄関に向かうが、門の外に声が聴こえた。
その声がほの花ではなく、男の声だったから眉間に皺が寄る。
殺気は感じないし、その男の声には聴き覚えがあった。どこで聴いた声か?
柱ではない。何度も聞いてる男の声は間違えない。じゃあ、一般隊士か?
どんどん近づいて行くその声の主が誰なのか気付いたのは結局目視できた時だった。
「…声がすると思ったらお前かよ…」
其処にいたのは刀鍛冶の鋼鐡塚という男。
俺にビクビクするような男ではないはずなのに此方を見た途端に背筋を正したソイツの後ろを注視してみた。
すると、栗色の髪が見えたのでズカズカと鋼鐡塚の後ろに回り込むとその様子に顔を顰めた。
ほの花が鋼鐡塚の背中に顔を埋めるような状態だったからだ。
すかさずほの花の体を抱き上げるが、すやすやと眠りこけている様子に脱力した。
「…俺は何もしていないぞ。疲労困憊で送ったまでのこと。着く間際に歩きながら寝出したんだ。俺の背中に頭をもたれさせながら。指一本触れてない。」
その言葉に嘘はないだろう。
鋼鐡塚はこちらを一度も見ずにそう言うと、自分が持っていた薬箱をその場に置いた。
「薬箱は此処に置く。俺は帰る。」
身の潔白を証明するためか両手を上げてひらひらと動かしているが、コイツのことを疑ってはいない。自分の恋人がどう言う女か分かっているつもりだし、頑張りすぎて此処まで体力がもたなかったのならば鋼鐡塚が言っていたような状況になるのも肯けるからだ。
俺はほの花を片手に寄せると薬箱を持ち、去って行くソイツに声をかけた。
「鋼鐡塚。俺の女が世話になった。恩に切る。」
こちらを振り向くことはなかったが、片手を上げるとそのまま太陽の中に消えていく。
腕の中のほの花の重さが心地よくて艶のある髪に唇を寄せると、家の中に入った。