第31章 忍び寄る終焉※
竈門炭治郎という糞餓鬼を気がすむまで追いかけ回すと、出てくるかわからないほの花を待ってみた。
どうこうする気はない。
ただ話したかった。
久しぶりに顔を見ると、やはりあの時と変わらない美しさに少しだけ胸が躍るのを気にしないようにしていたが、一人になり冷静さを取り戻すとちゃんと話したいと思ってしまった。
案の定、数十分後に出てきたほの花に声をかけると荷物を奪って前を歩いた。
他愛のない会話でも久しぶりに声を聞けたのは嬉しかったし、懐かしさを感じていた。
あの時は薬師と患者としての関係性だったが、今は担当刀鍛冶と鬼殺隊士だ。
どうやら此処でもほの花は薬師として重宝されているようで噂はよく聞く。
やれ傷薬がよく効くだの
やれ薬は苦いけどよく効くだの
しかし、それと同時に聞くのは音柱と恋仲だと言うこと。
会う奴会う奴にほの花の刀鍛冶だと言えば、音柱に気をつけろと言われるのだ。
もう既に会っているので気をつけるも何もないし、喧嘩っ早い奴だと思ったが、恐らくそれはほの花が絡んだ時だけだろう。
ほの花のこと以外の音柱の噂は"柱として尊敬される存在"と言うのが前面に出ていて、悪い噂は聞かない。
鬼殺隊での柱の立ち位置は確固たる物なのだろう。
それほどまでの男が堕ちた女と言うのがほの花。しかし、俺はここ最近で聞いた噂でどうしても直接本人に聞きたかったことがあった。
「…音柱は嫁がいたのか?」
もちろんほの花が不義をしているというわけではないというのは分かっている。
ただ嫁がいたのにそれを解消してまでほの花と一緒になったと言う。
それが本当ならば…あの男があそこまでほの花を大切にする理由が分かるからだ。
「え?は、はい…。前に…いらっしゃいました。三人。」
「さ?!さ、三人?!」
「はい。三人奥様がいらっしゃったんです。私のために…関係を解消してくれたみたいで…」
ああ、やはり噂は本当だったのか。だからあの男はあそこまでコイツを大切にして固執しているのだ。
その時の全てを投げ打ってでも生涯愛し抜くと決めたたった一人のかけがえのない女だから。