第31章 忍び寄る終焉※
わたしは炭治郎のためにそれはもう必死に走り回った。
彼をおぶりながら、鬼の形相で追いかけてくる鋼鐡塚さんから逃げたのだ。
私が彼をおぶさって逃げる義理があるかと考えれば……そこまでする必要はないかもしれないが、このまま一人にしたら彼の手の中にある包丁で滅多刺しにされるのではないかという不安がよぎった。
炭治郎は今、私の患者でもあるわけで無碍にするわけにはいけないのだ。
「は、鋼鐡塚さんーーー!!お、ひさしっぶり!ですっ!と、とりあえず!落ち着いてっ…話しッ…あいま、せんっ、か?!」
はっはっ…と上がる息のまま彼に声をかけるが、ドス黒い空気が後ろから漂ってくるのでまだ怒りは収まらないようだ。
「ほの花には用はねェーーー!!竈門炭治郎ーーーー!貴様ァアアアアアッ!!早く其処から降りて俺に殺されろォオオオオッ!」
「そ、それだけはぁああっ!ほの花〜っ!!ごめんよーーー!」
「……は、はは…っ、」
まだ終わらないらしい。
しかし、人をおぶりながらの全力疾走を既に1時間続けている私の体力だって永遠に保つわけではない。
「っ、ちょ、…た、たんじろ…!きゅ、きゅ、けい…!あ、あそこの木の上、の下まで行くから…!よじ登って…!」
「わ、分かった!ごめん、ほの花〜!」
私まで追いかけ回すことはないだろうと踏み、わたしは目の前に見えてきた大きな木まで走っていくと彼を抱えてなるべく上まで投げた。
そこまですれば炭治郎は近くの幹に掴まってくれたので、わたしはズルズルとその下に座り込んだ。
「あー…げ、げんか、い…、たんじろ…ごめ…」
「降りてこいィイイイッ!!!竈門炭治郎ーーーッ!」
すぐに追いついてきた鋼鐡塚さんを横目にわたしは脱力するが、興奮冷めやらぬ彼は木を蹴り上げたり、炭治郎を捕まえようと飛び上がったりして必死だ。
「ちょっと…二人でやってて下さい〜…私は休憩〜…」
せっかく鋼鐡塚さんに会えたと言うのにこの調子では暫くまともな会話はできないだろう。
荒れ狂う彼と怯えながら木に掴まっている炭治郎を見ながら私は深いため息を吐いた。
(…早く帰りたい…)