第31章 忍び寄る終焉※
──ほの花へ
父上には胃腸薬を
酒を飲み過ぎる故、宜しく頼む
弟・千寿郎には傷薬等外用薬を
よく怪我をする故、宜しく頼む
両名に風邪薬等の常備薬も宜しく頼む
君の薬は世界一だ。自信を持て。
以上──
ああ、駄目だ。
せっかく泣きたくなかったのに。
これは反則ですよ、煉獄さん。
「…兄はほの花さんに此れを渡すつもりだったのかと…。行く前もほの花さんのところで薬を調達してから任務に行くと言っていました。」
「っ、はい…ッ、いらっしゃいました…。帰ってきたら…ご家族の分の薬を頼みに来ると…約束していたんです…!」
だからそのために此れを書いておいてくれたんですか?
血でところどころ赤黒く斑点のようになっているがちゃんと字は読めるのはありがたい。
彼の願いが此処に記されていることで必然と私のすべきことは明白だ。
「…あなたが、…弟の千寿郎くんですか?」
「そ、そうです…!」
「此方の薬の処方箋を謹んでお受け致します。準備したらまた今度改めて伺ってもよろしいですか?」
「もちろんです…!ありがとうございます!」
煉獄さん、受け取りましたよ。
大切なご家族のために貴方が依頼してくれようとしていた内容は私が必ずお届けします。
物々交換はもう出来ないけど、甘味よりももっと大切な言葉を贈ってくれました。
──君の薬は世界一だ。自信を持て。
そんな簡単に自信なんて持てない。
それは変わらないけど、自信が無くなってどうしようもない時に貴方の言葉をこれからもずっと思い出すことでしょう。
煉獄さんの最期がどんな最期だったか聞く勇気はない。
聞かなくとも分かる。
後輩にこんなに慕われて、家族をこんなに大切にしている彼の最期が立派じゃない筈がないのだ。
私はその紙を暫く胸に抱いたまま、膝をついて涙を流し続けた。
そんな私を見て、釣られるように炭治郎も千寿郎くんも涙を流し始める。
きっと時間が経てばこの悲しみは薄らいでいくことだろう。
でも、彼の生き様、想いはこれからもずっと人から人は伝わっていく筈だ。
勇敢に鬼と戦い、人々を守った最高の炎柱の話を。