第31章 忍び寄る終焉※
しのぶさんに案内された部屋の中に入ると、一斉に此方を見た炭治郎達の目には涙が溜まっていて、その時初めて私は悲しいと言う感情を取り戻せたと言っていい。
心の奥底から湧き上がる悲しみが私の目にも涙をためていく。
「…っ、ほの花…ッ…!」
「た、んじろ…ぜんいつ、いのすけ…っ…!!」
唾液が喉の奥に垂れ込んできて苦しい。
慌ててそれを飲み込むが、後から後から分泌されて追いつかない。
それと同時に涙が溢れ出してくる。頬を伝い、顎まで垂れるとぽたぽた…と床を濡らした。
しのぶさんが私に頼みたかったのは怪我の治療だけじゃないのだろう。
彼らの心の療養をしてくれと言うことだろう。
私と彼らが仲が良いから。
扉の付近で立ち往生していた私はゆっくりと彼らに近づくとひっく…と吃逆をあげながら泣いている彼らを一度に抱きしめた。
「…っ、おかえりなさい…」
それ以上、何も言えなかった。
よく生きて帰ってきたね
頑張ったね
大変だったね
どれもこれも薄っぺらい。
私なんかが彼らの気持ちを理解するなんて出来やしない。
どれほど悲しいか
どれほど悔しかったか
自分達だけ生き残ったことを恥じているかもしれない
もしそうならばその気持ちは痛いほど良くわかるけど、今はただ彼らの悲しみを受け止めたかった。
言葉で慰めることなんて軽々しくできない。
人は悲しい時、つらい時、誰かのぬくもりが欲しいことがある。
私はそれで何度も宇髄さんに救われた。
だから私が今彼らにできることは
抱きしめることだけだ
「ほの花…、俺全然駄目だった…」
頑張り屋さんで前向きな炭治郎の弱音は初めて聞いたかもしれない。
「守ってもらってばかりでさ…、ちっとも役に立てなかった…!!」
「う、ウジウジすんなって言っただろうが!!泣くな!泣いても戻ってこねぇんだ!」
「お前だって泣いてるじゃないか…!被り物から涙が…!」
「うるせぇ!!」
三人の声が耳に心地よく響くと、少しだけ日常を感じたけど今日はそのまま抱きしめ続けた。
彼らから鼻を啜る音が聴こえなくなった頃、漸くその体を離すと、怪我の応急処置を始めた。
助かった命を全力で繋ぎ止める助けをする。それだけだ。
煉獄さんのためにも。