第31章 忍び寄る終焉※
── 無茶をするのは今ではありません。時機を見誤ってはいけません。
きっとしのぶさんも何かをしようとしてるんだ。
それが何なのか聞くことはできない。
何故なら私も彼女に隠し事をしているからだ。
治療が終わって暫くその言葉の意味を考えながらぼーっと縁側で座っていると「ほの花!」と聞き覚えのある声に呼びかけられた。
ハッとして後ろを振り返るとそこにいたのは先ほど別れたばかりの炭治郎だった。
「良かった〜!まだいたんだね!俺、音柱の家知らないから会えて良かった!」
私の顔を見るなり安堵の表情を浮かべる炭治郎に何事かと思い、立ち上がる。
「どうしたの?まだ何かあった?」
「うん。今、しのぶさんに診てもらったら完治したと言われたから俺は此処を発つよ!」
突然の別れの報告に目を見開いたが、決意とやる気に満ち溢れている炭治郎の姿に私の顔は緩んだ。
あんなに鍛錬したんだからそりゃあ実戦で役に立つかやってみたいだろう。
「そっか!気をつけて行ってきてね?」
「うん!ほの花は無茶しすぎないようにね?味方がたくさんいるんだから一人で背負い込みすぎないで。俺もほの花の味方だ。」
──無茶をするのは今ではありません。時機を見誤ってはいけません。
大丈夫、今じゃないんだ。
ちゃんと見極めなければいけない
私の踏ん張りどころを。
「ありがとう。私も炭治郎の味方だよ。禰󠄀豆子ちゃんを人間に戻そう!私も手助けするから。」
「うん!ありがとう!じゃあ、カナヲ達にもお礼言ってくるね!またね、ほの花!」
炭治郎はぶんぶんと大きく手を振りながら、屋敷の中へと消えて行った。
彼もまた珠世さんとの約束の下、秘密裏に動く鬼殺隊士の一人。
大丈夫、私は独りじゃない。
漸く一歩足を動かすと、また一歩動かす。
一歩ずつ進んでいくしかない。
立ち止まっても後退しなければいい。
私のすべきことは大切な人たちを守ること。
そして鬼舞辻無惨を倒すこと。
もう誰も死んでほしくない。
しかし、そんな希望に満ちた願いがとんでもなく甘っちょろい考えだったと私は思い知らされることになったのは翌日のことだった。