第31章 忍び寄る終焉※
痛々しい切り傷がガーゼの下から見えると、消毒液に浸した綿球を傷口に塗りながら彼女に問う。
「まだ嘘をついてますよね?」
確信があった。
ほの花さんはまだ嘘をついていると。
宇髄さんがいるところでは言いにくいだろうとこの場を選んだだけのこと。
「…使いましたか?あの力を。」
「…え…?」
しかし、腑に落ちないことは、わたしにはその力を使っていることを包み隠さず話してくれているというのに、今明らかにキョトンとした顔をした。
──ということは違う。
私が予想していた嘘とは違うものだ。
だけど、嘘をついているか聞いた彼女の瞳は少し揺れていたのは間違いなかった。
それが何かはわからないけど。
「ああ、違いましたか?てっきりあの力を使ったから貧血になったのかと思いましたが、考え過ぎだったようです。では…何を隠しましたか?」
まるで尋問のようだ。
追及しても、別に彼女を疑っているわけではない。ほの花さんが味方だというのは揺らぎようがない事実。
しかし、何か良からぬことを隠しているような気がして仕方なかった。
未然に防げるものならば防ぎたいし、彼女が宇髄さんに言えないことも話せる相手でありたいと思っていたから。
「…か、隠したなんて…そんな…。」
どうやら隠し事は当たっているし、私にも言えないことなのは間違いない。咎めるつもりはないが、身を滅ぼすことにならないか心配だった。それだけのこと。
ほの花さんは自己犠牲心が強すぎるから。
ただそれは私にも言えること。自らの体に藤の花の毒を少しずつ飲んで溜め込んでいるなんて常人が考えつくようなことではない。
それもこれも鬼舞辻無惨を倒すため。
彼女もまた大義を成し遂げるためならば己の身を投げ打ってでも遂行するだろう。
しかしながら…彼女にはいずれ毒のことは話さなければならないだろう。医学の知識に長けている彼女に隠し続けるのは困難を極める。
「そうですか?どうやらこちらも気のせいだったようです。失礼しました。」
「い、いえ…。」
きっとそれを話した時、彼女もまた話してくれるだろう。それまでは隠し事をしていることを内緒にしましょう。
お互いのために。