第31章 忍び寄る終焉※
今も落ち込んでいるだろうか。
耳が良くて私の心音の音さえ聴き分けられる彼が体調の変化に気付かなかったことなんてない。
私ですら気づかない自分の変化を彼だけは気付いていたりしたこともある。
それほどまでに私のことを考えてくれていたのに、身の保身のためについた嘘で彼を傷つけたのだ。
「うん…よく分かってる。私以上に私のことを心配してくれてるから…」
──嘘をついたことが心苦しいよ
「??ほの花ちゃん、ありがとう。私、自分の役割を全うするわ。」
いつの間にか目の前にはしのぶさんの診療室。
アオイちゃん目に光っていたものは姿を消してかわりに可愛らしい笑顔が弾けている。
私は名残惜しくも手を離すとその手を振って彼女を見送った。
他の人と比べることなんて本当にしょっちゅうだよ。
だけどアオイちゃんの話を聞いて自分だけでないと言うことを知れたのは気持ち的に随分楽になった。
アオイちゃんの足音が聴こえなくなるのを確認するとしのぶさんの診療室の前で声をかける。
「しのぶさん、ほの花です。」
「どうぞ。」
扉を開けるといつものにこやかなしのぶさんがこちらを見ていたが、陽の光に照らされていつもより顔が青白く見えた。
「…?しのぶさん、大丈夫ですか?」
「え?何がですか?」
そう聞いても顔色ひとつ変えない彼女に気のせいかもしれないと思い直したが、念のため聞いてみることにした。
「いえ、顔色が悪いように見えたので…。」
「そうですか?全く体調には問題ありませんよ。」
「そう、ですか?」
笑顔で返されてしまえばその次の言葉は飲み込むことしかできない。今日は自分の診察で来たのだ。確信がないのに余計なことを言ってしまうと気を悪くするかもしれない。
「すみません。光の加減かもしれません。」
「いえいえ。足の傷を見せてくださいね。」
しのぶさんは私の足に巻かれた包帯を外しながらチラッとこちらを見て「聞いても良いですか?」と言ってきたのでコクンと頷く。
読めない表情の彼女に一体、何を聞かれるのか…とドキドキしていると全ての包帯が取り除かれて素肌に触れる空気がやたらと冷たく感じた。